◎05
今日は高校最初の授業参観だ。
先生たちはいつもよりきちっとした格好をしていて、心なしか緊張してるようにも見える。
蓮二さんにはお仕事を優先してねって言ってあるから来ないと思う。
小学生中学生の頃は蓮二さんに見られてると思うとそわそわして落ち着かなかったけれど、今日は落ち着いて授業が受けられそうだ。
「この問題解ける人・・・今日は16日じゃから出席番号16番」
「(a-b)(ab+c)です」
「ご名答ナリ」
因数分解はややこしくて苦手だから当たらなくてよかったと心のなかで安堵する。
わからないところは蓮二さんが教えてくれるし、試験前にはよく泣きつくんだけど。
それにしても数Tの仁王先生は色っぽい。
目付き悪いし襟足長いしいつもダルそうなんだけど、マダムキラーと呼ばれるくらいお母様方には人気があるってれのちゃんが言ってた。
女子生徒にもすごい人気があるけどね。
変わったしゃべり方をするけれど、どこ出身なのかは教えてくれないらしい。
教え方はすごくわかりやすいけど、正直ちょっとかわった先生だなって思う。
授業もあと10分くらいで終わるって頃、カラカラと控えめに教室のドアが開く音がしたと思ったらいつもあまり表情を変えることがない仁王先生が一瞬びっくりしたような顔をした、気がした。
振り向くわけにはいかないし、何が起きたのかはわたしにはわからないけど。
そのあとは何事もなく授業は終わって、HRを済ませたら懇談会とPTA総会があるから早く帰れと担任に言われて教室を出た。
『なにこれデジャブ』
「終わったのか」
『蓮二さん来ないと思ってたのに』
「ちょうど抜け出して来れたんだ。それに1度仁王の授業を見てみたかったからな」
『まさか』
蓮二さんと話をしていた仁王先生を見れば、プリッとよく意味のわからない言葉が返ってきた。
「あん時のチビはこんなに大きくなったんか」
『それこの前真田さんにも言われました』
「おーおー、真田にも会ったんか」
『この前来てたじゃないですか』
「そうじゃ、これ開けてみんしゃい」
いつから持っていたのか、仁王先生に手のひらサイズの箱を渡されて迷うことなく開ければ、
『うぎゃっ!』
びょんびょんと勢いよく飛び出してきたピエロの人形にびっくりして思わず箱を放り投げた。
「ククッ、中身はちっとも成長しとらん」
『な、なにするんですか!』
「ゆずは小さい頃全く同じ手にひっかかって大泣きして大変だったんだぞ」
『知らないもん』
「あれからしばらく仁王には近づかなかったな。ぎんいろきらい、とよく言っていた。覚えてないか?」
『ぎんいろきらい、はなんか言った気もする』
「今はもう黒髪じゃ」
『じゃあ仁王先生きらい』
むう、と怒ったように言えば、数Tの成績がどうなってもいいんかのう・・だなんてひどい、職権濫用だ!
『蓮二さんも蓮二さんだよ。なんで教えてくれなかったの?』
「その方がおもしろいだろう?」
『あと何人いるの?』
「それは言えないな」
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