◎14
「あと3分で精市が来るぞ」
『えっ・・待って待って』
どたばたどたばた。
寒さも厳しくなってきた12月。
クリスマスの繁盛気前の日曜日、今日は幸村さんと丸井さんのケーキ屋さんにお邪魔するという約束の日だ。
蓮二さんは真田さんと将棋をする約束をしたらしく、もうじき真田もうちにやって来るとかなんとか。
ピンポーン
「タイムオーバーだ」
『あとコート着るだけだもん!』
蓮二さんと一緒に玄関まで行けば、幸村さんと真田さんが2人揃って立っていた。
『幸村さん真田さんこんにちは』
「む、なんだゆずは出掛けるのか」
「俺とデートだよ。ね、ゆずちゃん」
『デート・・・っ!』
「蓮二と真田は将棋だっけ?おじいちゃんの休日みたいだな」
けらけらと笑う幸村さんは今日もかっこいい。
家にあがった真田さんと入れ違うようにショートブーツをはいて玄関をでた。
真田さんに見送られるってなんか変な感じだ。
「丸井のお店は駅の近くだからここから10分くらいかな」
『近いですね』
「プラチナってお店なんだけど聞いたことある?」
『アクセサリー屋さんみたいな名前ですね』
「丸井の誇りだったのかな、だからその名前を残しておきたかったのかもしれない。今度ジャッカルにでも聞いてみればいいよ」
桑原先生の名前がでてきたってことは、テニスに関係することなのかもしれない。
かっこいいな、ずっと誇りを持ち続けられるって。
「さあここだよ」
カランカランとおしゃれなドアベルが鳴る。
赤い壁に木でできたドア、絵本に出てきそうなかわいいおうちみたいなお店だ。
「お、きたきた」
「やあ、この間ぶりだね」
ちょうど新しいケーキをショーケースにだしていた丸井さん。
まだ13時すぎなのにショーケースはがらがらでこのお店がすごく人気だってことがわかる。
「幸村くんとゆずの分はちゃんと取ってあるからちょっと座って待ってて」
3席しかないイートインスペースのひとつに【予約席☆】のカードが置いてある。
幸村さんが迷わずそこに座るから、わたしも慌てて向かい側に。
小さなテーブルだから向かい合って座ってるのに距離が近い。
「レアチーズ、いちごタルト、オペラ、シフォン、ミルフィーユ、モンブラン」
「いったい何個持ってくる気だい?」
「全種類1つずつ?」
「残りは持ち帰りにしようか」
小さなテーブルがケーキでいっぱいだ。
今日ばかりはダイエットは一時休止、思う存分食べてやるんだから。
一緒に持ってきてくれた紅茶を見れば、こんぺいとうが添えてある。
『お砂糖がこんぺいとうだ』
「こんぺいとう好きだっただろい?」
『覚えてたんですか・・・!』
「こんな小さいアメであんなに喜んだのはゆずくらいだったからな」
「みんなに見せびらかしてたよね」
「あんなチビがなー」
「俺たちも年取ったね」
『大丈夫ですよ、とても30には見えません』
「真田に比べたら俺たちもまだまだ若いよな」
「だいぶ中身と外見が合ってきたよね」
真田さんがいないからって言いたい放題だ。
さくさくのいちごタルトを食べながら幸村さんを見れば、生クリームが添えてあるシフォンケーキを食べていた。
「ゆずちゃんも食べる?」
はい、あーんだなんてフォークを差し出される。
どうしよう、これは試練だ。
幸村さんからあーんだなんて、爆発する。
でも断るなんてこともできないし。
ぱくり、口にいれたシフォンケーキの味は正直よくわからなかった。
「俺もいちご食べたいな」
『え、あっ、』
これはまさか、あーんを求められている・・・!?
にこにこ、目の前で微笑む幸村さんにおずおずといちごを刺したフォークを差し出せば綺麗な唇がおいしいね、と言葉を紡いだ。
「幸村君あんまりゆずをいじめんなよー。顔真っ赤じゃん」
「つい、ね」
丸井さんと楽しそうに話す幸村さんを見れずに、わたしはぱくぱくとテーブルのケーキをひたすら食べる。
お皿のケーキがなくなる頃にはわたしのお腹はぱんぱんだった。
『あ、幸村さんも食べたいやつありました?』
「ううん、ゆずちゃんがおいしそうに食べるからもうお腹いっぱい」
『・・・なんか、恥ずかしい』
いい食いっぷりだったぜ、と笑う丸井さんにお土産用のケーキももらって「クリスマスはブッシュドノエル用意するから楽しみにしてろよい?」と嬉しい予告もあってわたしはるんるんでお店を出た。
「嬉しそうだね」
『はい!プラチナのファンになっちゃいました!』
「それはよかった、また行こうね」
『はい!連れていってくれてありがとうございました!』
幸村さんと真田さんも一緒に夜ご飯を食べて、デザートにまた丸井さんのケーキを食べて(蓮二さんと真田さんに甘さ控えめのほうじ茶と抹茶のケーキが入ってた!)、幸村さんには今日6個目のケーキだねと笑われて。
甘いものを食べ過ぎだと真田さんの眉間にしわが寄ったけど、それは見えなかったことにした。
明日からクリスマスまではダイエットしようそうしよう。
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