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『うーーーーん』

とってもとっても暇なのです。
足がズキズキ痛むので、今日は大事をとって学校はお休み。
ギプスもしてあるし、多少歩きにくいだけで大丈夫だと伝えたのだが過保護な蓮二さんのお許しはもらえなかった。
逆に言えば足が痛い以外は元気なのでわたしはとっても退屈だ。





ピンポーン

そんな退屈を打ち破ったのはひとつのチャイム。
モニターを確認すればそこにいたのは幸村さんで。
急いで玄関を開ければコラ、走らないの、と怒られてしまった。




「蓮二から聞いてね、暇だろうと思ったから。約束のケーキ」

「わあ、すっごくかわいい!」

幸村さんが箱から出してくれたのは、たくさんのフルーツが乗ったタルトだった。
だいすきないちごにもも、ブルーベリーにキウイとメロン、オレンジまで乗っている。



『キラキラの宝石みたい!』

「喜んでもらえてよかった」

『幸村さんありがとうございます』

食べるのがもったいないけど、はやく食べたいなんて矛盾。
フルーツタルトに合うと一緒に持ってきてくれたニルギリという紅茶を幸村さんが淹れてくれたのでつかの間のティータイムだ。




『おいしい〜』

ほっぺたが落ちるとはまさにこのこと。
タルトのサクサクと、カスタードの甘味とフルーツの酸味。
計算し尽くされたバランスだ。
おいしすぎてにやにやしちゃうレベルだ。




「天才的なおいしさだろう?」

『はい!でもこんなにおいしいケーキだと、すっごく高かったんじゃ・・・』

高いやつ、だなんて言ったけど調子にのったかもしれない。




「俺の知り合いに天才的においしいケーキを作るパティシエがいるんだ。だからゆずちゃんはなにも考えずにこのケーキを食べればいい。わかった?」

『わかりました』

天才的においしいケーキを作るパティシエの知り合い、わたしも欲しい。
どんなひとなんだろう、かわいい女のひとかな?





『ずっと疑問だったんですけど、幸村さんってなんのお仕事してるんですか?』

「気になる?」

『すっごく気になります』

「ひみつ」

『えー!!!』

職業ひみつとは。
まさか、人に言えないような仕事してるとか・・・。





「昔ゆずちゃんも来たことがあるよ」

『来たことがある・・・?』

「10歳くらいのときかな?父の日にあげるプレゼントを買いに来てくれてね、覚えてるかな?」

10歳のときの父の日。
おこづかいを握りしめて初めて蓮二さんへ父の日のプレゼントを買ったときだ。
確か、蓮二さんの好きな色、白のお花を買いに学校から帰って来てランドセルを置いたらすぐにお花屋さんに走った記憶がある。




『お花屋さんに行って、白いお花くださいって』

「だけど買えなかったんだよね、ゆずちゃんが気にいった花が」

『白いお花がどれも高くて、ブーケにするにはおこづかいじゃ足りなくて。それでわたしが泣いてたら、お兄さんがちょっと待っててくれるかなって』

レジの近くにあったイスに座らせてもらって15分くらい待っていたら、お兄さんはわたしの希望した白い花でかわいい小さなブーケを作って持ってきてくれたのだ。




「300円でいいよって言ったのに、ゆずちゃん頑固だからそんなに安いわけがないって言って500円置いていくからあとで蓮二に返しに行ったんだよ」

『あの時のお兄さんが幸村さんだったなんて』

「俺の家の庭で育ててた白いデイジーにお店の花を少し足してぴったり300円にしたんだよ。ゆずちゃんの1ヶ月のお小遣いが1000円だっていうのも、少女漫画の月刊誌をたのしみにしてるのも知っていたからね」

『わたしのことなんでも知ってるんですね』

「蓮二の周りで妹がいたのは俺くらいだから、いつも相談されてたからね。蓮二のこともゆずちゃんのことも俺がいちばん知ってるかな」

蓮二があのときのデイジーを押し花にして栞にして本にはさんでることも、なんてわたしまで知らなかった事まで飛び出して。




「ゆずちゃんに初めてもらったプレゼントをどうにか生かすだろうと思ってね。押し花にしやすい花を選んだんだ」

もうこれは幸村さんさすがとしか言えない。




『幸村さんってお花屋さんなんですね』

「昔からガーデニングが好きでね、趣味が仕事になったってところかな」

『幸村さんとお花ってすごくぴったりだと思います』

幸村さんからいつもいい香りがするのはお花のにおいだったのか。
きっとお花も、幸村さんに似て可憐なんだろうなぁ・・。




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