バレンタインの魔法



どこか周りがそわそわしてるのは、気のせいではないはず。
そう、わたしだってそのひとり。


今日はバレンタインデーなんだもの。


かばんのなかでゆらゆら揺れるのは、綺麗にラッピングされたチョコレート。
どきん、どきん、学校に近づくにつれて心臓の音が大きくなる。



すう、と1回深呼吸。



いつも通り、上履きを履こうと自分の下駄箱をあける。
……と、ちょこん、と上履きの上に置かれていたピンク色の包装紙にきらきら光るゴールドのリボンがついた箱。

胸のどきどきが大きくなって。

かばんに自分が作ったチョコレートが入っていることも忘れて旧校舎2階いちばん東の教室まで走った。









『っ、れんじくん!!』

「おはよう」

ばん、と勢いよく開いたドアの音に、れんじくんは読みかけの本を床に置いた。




『れんじくん、これ…』

「そんなところに立っていないで隣に来たらどうだ」

『う、うん…』

太陽の光を背中に浴びるように、やわらかい暖かさに包まれたれんじくんの隣に座る。



「姉さんから流行っていると聞いた。逆チョコ、と言うんだろう?」

流行っていうものにあまり興味がない。
そんなれんじくんから逆チョコなんて言葉が飛び出してきて、正直びっくり。

目をぱちくりさせるわたしに微笑みながら、するり、ときらきら光るリボンをほどけば。





「ここは将来、俺がもらうからな」

左手の薬指に結ばれて。
光がきらきら反射して、本物の指輪みたいに綺麗。




『嬉しい…』

「ゆずは俺にくれないのか?」

『…あ!』

今日はびっくりすることばっかりですっかり忘れていた。






『走ったからくずれちゃったかも』

そんなことを言いながられんじくんに渡す。
 
あっという間にリボンは紐になって、トリュフチョコレートをひとつ手に取った。






『れんじくん甘いの苦手だから、ビターにしてみたの』

「ありがとう。せっかくだから一緒に食べるか?」

ぱくり、自分の口にトリュフチョコレートを入れると、ぐいっと抱き寄せられてふわりと甘い香り。

頭の後ろに片手をまわして、もう片方の手は腰に。
お互いの口の中を行ったり来たり、舌を絡めてチョコレートを溶かす。




『っは、』

「うまいな」

ふっとわたしの好きな笑顔でぽんぽんと頭を撫でられて。




『あ、授業…』

ちらり見えた時計はとっくに1限目を過ぎていた。



「1限くらいはこのままでも大丈夫だろう。今日は部活も早く終わる、帰りにどこか寄るか?」

『ほんと?嬉しいな』

「あぁ。ゆずの行きたいところに付き合ってやろう」

繋いだ手はもちろん恋人繋ぎで。





『じゃあね、じゃあね、れんじくんとプリクラ撮りたい!』

「全てキスしてるやつでよければな」

『え、』

「仁王が彼女と撮ったと言っていた」

『れんじくん撮りたいの?』

聞けばふい、と顔を反らされて。






『でも。……1枚くらいなら、撮ってもいいけど、』

「っ、」



バレンタインはまだ始まったばかり。






back home


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -