◎くま
『わわわ、やばい!お母さん朝ごはんいらないから!』
バタバタ足音を響かせながら玄関のドアを開ける。
寝癖を撫でつけながら、ローファーで全力疾走!なんて30秒も続かなくて結局歩く。
『光くんのせいだ』
久しぶりのデート。
かわいいクマのぬいぐるみを見つけて、欲しい欲しい騒いだら「あんなん1日あれば作れるやろ」とか光くんが言い出したのが2日前。
ほんとに1日でクマを作ってきたのが昨日。
まぁ確かに光くんは器用だけどさ、わたし女の子なのに男の子の光くんより劣ってない?劣りすぎてない?なんて思って作り方を電話で聞いたのが失敗だったんだ。
『おはよー』
「お前なぁ……とっくに授業始まっとんのやからな」
『ごめんなさーい』
けたけた笑いながら自分の席に荷物をおろす。
さて、1限目の数学は睡眠学習に変更しよう。
隣の席の白石くんがため息ついたような気がするけどまぁいいや。
「……ぱい、先輩、」
『…んぁ?』
「いつまで寝とるんすか?もう昼休みっすわ」
『えー!お昼ないから購買行かなきゃ!』
「そっちかいな!」
うんうん、謙也くん今日もいいツッコミありがとう。
「また寝坊っすか?ほんま、ダサいっすわ」
『光くんがなかなか電話切らせてくれなかったくせに』
「しゃーないやろ、先輩物覚え悪いんやから」
『違うよ、光くんが器用なんだよ』
「そんなん当たり前やないっすか」
『うわー、ナルシストだ!』
「ちゃいます」
『って、こんなこと話してる場合じゃないんだよ!』
時計を見れば、お昼休みはあと半分くらい。
急がなきゃ遠山くんに全部食べられちゃう!
「……これ、」
『ん?』
「先輩どうせ寝癖するやろ思て、弁当作ったりました」
『……え、』
「いらへんねやったら自分で食うし」
『いります欲しいです食べさせてください!』
ふい、と顔を背けながらも見える真っ赤な耳。
『ありがとう光くん』
「別にこれくらいええっすわ」
『お礼に今日、映画行こうか』
「どうせ昨日公開の3Dホラー見たいだけやろ?ぜっったい見ぃひんからな」
『ちぇっ、バレたか』
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