◎もしも君なら
『だからここの冠詞はtheになるの。わかった?』
「…つーか、冠詞ってなに?」
『…。aとかtheとか名詞の前につけるやつだよ。たまに後ろにつく時もあるけど…』
「ふーん」
オレンジ色の太陽が照らす放課後の教室。
課題のプリントを二ノ宮に教えてもってっけど、集中なんて出来ねぇし、くるくるペンを回す。
顔近いっつーの!
『あと1枚だよ。もう、毎日居眠りするから…』
ぺら、とぺーじをめくる二ノ宮の指先に、つい目がいってしまう。
『切原くんどうかした?』
「んあ?」
『ぼーっとしないの!』
む、として俺のおでこにデコピンしてきたけど、ちっとも痛くねーし、むしろ嬉しくてにやにやしちまう。
『I wish I were・・・切原くんは、「もしも××になれるなら」何になりたい?』
ここは重要だよ、とプリントにマーカーを引きながら問いかけてくる二ノ宮に、少しだけうーん、と考える。
「二ノ宮の好きな人」
すんなりと口から出た。
『え・・?』
「だーかーらー!二ノ宮の好きな人。・・・・・二ノ宮は?」
俺、余裕だぜって雰囲気を出して二ノ宮に同じことを聞き返す。
内心、息が止まるんじゃないかってくらい心臓がばくばくしてる。
『それなら…それならあたしも、切原くんの好きな人になりたい』
赤い頬を隠すように俯いて言う二ノ宮。
やべぇ、ちょうかわいい!
「こっち向けよ」
『・・・恥ずかしいし』
「何を今さら。ずっとこの距離で話してたじゃん」
『だ、だけど・・っ、』
この先の言葉はいらねーし、
「うるさい口はしばらく黙ってな」
『い、今、きす、・・し・・・っ』
「ほら、もう帰ろーぜ」
口をぱくぱくさせて、目はぱちぱちさせる二ノ宮に、ふっと笑う。
『プリント・・・』
「なんとかなるっしょ」
ひょいっと2人分のかばんを左手に、二ノ宮の手を右手に取って教室を出た。
I wish I were ...
願わくば、君のとなりに。なんつって。
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