syrup


∴Vampireな仁王くん



友だちの家から朝帰りなんてよくあること。
ただ今日が平日だなんてことすっかり忘れてて、通勤ラッシュのこの時間の電車に乗ったことを少なからず後悔した。


(もういいや、1駅分くらい歩いて帰ろう)


そう思って最寄り駅の1つ前でホームに降りる。
ぎゅうぎゅうの車内から開放されて、すぅ、と大きく空気を吸い込んだ。



(…あれ?)

上りも下りも電車の行った、あまり栄えていない駅のホームには人もまばら。
なのにいかにも、これから仕事です、な格好したリーマンのお兄さんがものすごく白いというか青い顔してベンチに座っていた。
いつもなら100%声なんてかけないのに、その時は何かに引き付けられたかのようにお兄さんに声をかけていた。







『…大丈夫、ですか?』

わたしの声にゆっくりと顔をあげる。




『顔色、すごく悪いですよ』

わたしのことを瞳に映しているのに何も言わない彼に痺れを切らして(そこ、短気とか言わない!)、彼の手を取ると、半ば強引に自分の家へと歩き出した。















『どうぞ』

ペットボトルごとミネラルウォーターを渡せば、一口飲んだだけでキャップを閉める。




「……ありがとさん」



『大丈夫ですか?』

「…ん。少し、貧血なんじゃ」

引っ張って歩いてくる間に少し心を開いてくれたのか、ぽつりぽつりでも話をしてくれるようになって少し安心する。


彼は、仁王雅治と言って、建築関係?の仕事をしているらしい。
ちなみに変わった言葉もしゃべる(ぴよって言ったし!)




『貧血だって、立派な病気です』

「でも俺のは単なる血液不足じゃから」

『…は?』

「昔よりもいろいろ厳しくなったきに、簡単に血が飲めん時代なんじゃ。ほんに、世知辛い世の中なり」

『飲む…?』

「輸血用の血液パックもなかなか手に入らんし」

『え、』






「だから、お前さんの血液を少しわけてくれんかのう」

にやり、と笑って言ってくるから思わず『うん』と言いそうになって頭を振る。
いけめんの笑顔こわい。





『ええぇぇぇぇ!!えっと、あの…もっと、詳しく…』

「俺、2世なんよ、吸血族の」

『きゅう、けつ…』

「周りが思っとるほど変なもんじゃなか。年も取るし十字架じゃって平気じゃ。夜の方が好きじゃが、昼間だって歩ける。ただ、人間の食事の他に補食として血が必要なんじゃ」



『うん…』


確かにイメージしてたものとは全然違う。
もっと、カウント伯爵@セ〇ミストリートみたいなものかと思ってた。





『怖いか?やっぱり、お前さんも気持ち悪いって思うか?』

静かに目を伏せてそう言ってくる仁王さんに、少しだけ切なくなった。






『…怖くないって言ったら嘘になる』

「……」

『だけど、気持ち悪いだなんて、思わないよ』

きっと今まで仁王さんは、そうやって傷ついてきたんだと思う。
わたしはそんな仁王さんを、傷つけたくないって思った。





『いいよ。わたしの血で良かったらあげる』

「え、」

『やっぱり、首なのかな?』

驚く仁王さんを余所に、ぷちぷちとボタンを外してシャツをはだけさせる。
ぐい、と首から肩にかけてを出すと、『飲んでいいよ』と笑った。





「ほんとにいいんか?」

怖さは抜けないのか、少しだけかたかたと震える自分に苦笑しながら頷く。






『恥ずかしい、から…早くして、』


「…ありがとさん。いただきます」

ぎゅう、とまるで抱きしめられてるような感覚。
だけど、鋭い牙?がつぷりと肌にささって一瞬ちくんと痛んだら、すぐにふわふわした気持ちになる。
ぱち、ぱち、とゆっくり瞬きをすると、じゅるり、と啜る音がして、首から離れ濡れた唇を舌舐めずりする彼と目が合った。






「ゆずちゃんの血、うまいなり」

『どう、いたしまして…?』

「今度はゆずちゃんが貧血じゃ。すまんの、5分くらいで治るから」

『うん…』

目がとろん、と重くなってきてそのまま睡魔に負けて眠ってしまった。







後から聞いたんだけど、早く貧血が治るように吸血族の唾液には造血促進効果があるんだって。
なのに自分の血はつくれないなんて変なの、って言ったら仁王さんはそうじゃな、って苦笑い。

でも、今はそれで良かったって。
だってわたしは、これから仁王さんにどっぷりハマってしまうんだから。






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