ショートJOJO | ナノ


▼ 兵どもが夢の…

*Starlly Heavens夢主設定





エジプトへ向かう途中のジョースター一行。
ある宿の一室に6人は集まっていた。
全員が部屋の中央にある机を囲んで神妙な顔で座っている。
彼らの視線はある一点を凝視していた。
その視線の先にはジョセフの手、更にその中には6本の木の棒が。

「さぁ、どれを選ぶ?」

ニカッ、と笑ったジョセフの手の中から一番に棒を引いたのは花京院だった。

「あっ!花京院!オメーずりぃぞっ!!」

「フッ、悪いがポルナレフ、先んずれば何とやら、ってね。」

しかしその棒の先には数字のBと書いているだけだった。

「ブハハハっ!花京院、お前自信満々に言っといて恥ずかしい奴、
___ゴフッ!!いってぇな!なにすんだよ!!」


そう、彼らは今『王様ゲーム』に興じていた。
何故このような事態になったかと言えばポルナレフの言葉から全ては始まったのだ。



「なぁ、王様ゲームって知ってる?」

次の行き先も決まった一行は、休息をとるために各々の部屋へと戻ろうとしていた。
だがそれを遮ったのはポルナレフがポツリと呟いた言葉だった。
反応したのは学生の三人だった。

「どうしたの?突然。」

「そりゃあ知っていますが…。」

「それがなんだってんだ。」

「Oh,さすがジャパニーズ!実は前々から興味があったんだ。是非ご教授頂きたいのだが。」

まるで大層なものを教えてもらうかのような言葉遣いに私たちは疑問符を浮かべる。

「人数分のくじを用意して、その中の一本になんでもいいから印をつけておくんだよ。それを引いた人が王様。他のくじには番号が振ってあって、王様はその番号を指定して命令を出す。『1番が○○する』みたいにね。」

「へぇ〜、なんでも命令していいの?」

「まぁ常識の範囲内でね。『王様の言うことは、絶対』ってヤツだよ。」

「ふ〜ん、なるへそ」と言ってポルナレフは納得したようだった。
だがその『王様ゲーム』に興味を示したのは意外な人物だった。

「なかなか面白そうなゲームじゃあないか。私も興味があるな。
それに私たちは即席の寄せ集めの集団だ。だがこれからエジプトまで旅を共にする仲間でもある。
こんなゲームを通して互いのことがより深く知れたら良いのではないか?」

アヴドゥルさんの言葉にジョセフさんも反応する。

「そうだな。部屋に戻った所でどうせすることもないんだし、良い気分転換にはなるかもしれんな。」

「おっ!話が分かるねぇ〜!じゃあ俺、早速くじを作ってくるかな。
名前、フロントで割りばし貰ってくるぞ!」

「えぇ!?私!?」

反論する間もなく名前はポルナレフの手に引きずられて行ってしまった。
後に残された学生二人組はそれぞれ顔を見合わせて一つ、ため息をついたのだった。

◇◇◇
そんなこんなで冒頭に戻る。
花京院含め、全員がくじを引き終わり残るはドキドキの「王様だ〜れだ」タイムだ。

「王様にはよぉ、赤い印がついているからな!」

皆が一斉に己の手元にあるくじに目をやる。

「私が王様のようだな。」

声を上げたのはアヴドゥルさんだった。
そのことに名前含めた学生組はホッ、とする。
常識ある彼ならば無茶な命令はしてこないだろうと確信していたからだ。
ポルナレフは今か今かと目を輝かせて彼の方をじっと見つめている。

「そうだな。2番はロビーで全員分の冷たい飲み物を買ってきてくれ。このホテルはどうも空調の調子が悪いらしい。暑くて仕方がない。」

流石アヴドゥルさんだ。
可もなく不可もない見事な命令にホッとした。
さて、誰が2番だったのか、と考える間もなく声を上げたのは彼だった。

「げぇえ〜!俺かよっ!!アヴドゥル!それくらい自分で買ってこいよな!!」

「な〜にを言っているんじゃ、ポルナレフ!王様の言うことは、絶対、なんじゃろう?」

「そういうことだ。勿論自腹でな。」

ジョセフさんの援護射撃もあってポルナレフは文句を垂れながら渋々と扉の外へと出て行った。




「買ってきたぜ〜。ったく人使いが荒いんだからよぉ〜。」

ドサリ、とポルナレフがテーブルに缶の入ったビニール袋を置く。

「自分から言い出したことだろう。文句を言うな。」

「へいへい。」

ポルナレフが買ってきた飲み物を適当に全員が取り飲み始める。

「じゃあ主役も戻ったことだし再開としますか!」



再び私たちはくじをそれぞれ手にする。

「王様だ〜れだ!」

私はA番だった。
誰が王様なのか、キョロキョロと全員の顔を見渡す。

「僕ですね。」

「んな!?花京院!おめーかよ!!」

「フッ、悪いなポルナレフ。今回は僕が王様のようだ。」

特徴的な前髪をサラリと手で流したかと思うと花京院君は口を開く。

「…そうだな。D番がB番の膝の上に乗るってのはどうだい?」

自分の番号が指定されなかったことにホッとしつつも、誰が指定されたのか気になり辺りを見回す。
そこには明らかに顔色を悪くしている男二人がいた。

「か、花京院…、お前はワシに何か恨みでもあるのか…!?」

「わ、私のキャラじゃあない……!!」

青ざめた二人を見て明らかに上機嫌になったのはポルナレフだ。

「…え?マジ?マジに言ってんの?花京院?
ぶ……ブハハハハハハハッ!!さいっこーだな!!お前っ!!」

顔を真っ赤にさせて大爆笑し始めたポルナレフを止める者はもういない。
承太郎までもがニヤニヤと笑みを浮かべながらその様子を楽しんでいるようだった。

「じじい。さっさと命令を実行しな。先に進まねぇだろうが。」

「ぐぬぬぬぬ……!承太郎、他人事だと思ってからに〜!!」

「あの、ちなみにどっちがD番でどっちがB番なんですかね…?」

私の言葉にジョセフさんとアヴドゥルさんは震える手で割りばしを渡してくる。

「アヴドゥルさんがD番で…、ジョセフさんがB番……、プッ!」

思わずその絵を想像してしまった私は噴き出してしまう。
周りの皆も同じ気持ちだったようで部屋の中はえらい騒ぎになってしまった。

「ええ〜い!うるさいっ!うるさいぞ!もういい!アヴドゥル!こうなったらさっさと済ませてしまうぞ!!」

「ジョ、ジョースターさん…!?本気ですか…!?」

「ワシだってやりたくない!やりたくないが……、仕方ないだろう!そういうルールなんだから!」

もはや泣き出しそうになっている二人に少し可哀想な気持ちになってしまう。
ソファに座るジョセフさんの膝の前に汗をかきながら立つアヴドゥルさん。

「……ジョースターさん、行きますよ……。」

「あぁ……。来い、アヴドゥル。」

その掛け声が気持ち悪いと思ってしまう私は失礼なのだろうか。
そしてアヴドゥルさんは恐る恐るといった様子でジョセフさんの膝の上へと座った。

「…………。」

お世辞にも若いとは言えない筋肉モリモリの二人が密着しているこの構図。
部屋の中に沈黙が流れる。
それは彼らが立ち上がるまで続いた。

「……もう、いいだろう。」

「…なんか、すみませんでした。」

その雰囲気は流石の花京院ですら謝らずにはいられなかった。



「さて、気を取りなおして続き、行くか!」

先ほどの命令で精神的に満身創痍になっている二人は何も発さない。
無言でくじを引いていた。
それから何回か無難な命令をこなした後、ある変化に気がつく。

(なんか…、あっつい。)

心なしか全身が火照っているような感覚。そして頭もあまり回っていないような感じがした。

「名前、大丈夫か?」

「う、うん…。なんかこの部屋があっついのかな…?少しボーッとする。」

「よぉ〜し!!次のゲーム、いっくぜぇ〜〜〜!!」

よくよく気にして見てみればポルナレフもその白い肌が真っ赤に染まっているし、花京院に至ってはこっくりこっくりと船を漕いでいる。
まさかと思い承太郎は先ほどポルナレフが買ってきた缶に手を伸ばす。

「……ポルナレフ、てめぇ…、間違えて酒を買ってきやがったな。」

どおりで先ほどから皆の様子が可笑しいはずだ。
だがポルナレフが買ってきたのは甘いカクテル風の酒だったので、普段から結構な頻度で飲酒している承太郎には気がつかない位弱いアルコールだったのだ。
その証拠にジョセフもケロッとしている。
アヴドゥルに至っては元々色が黒いので良く分からないのだが…。
しかしその目が据わっていることから彼も酔っているのであろうことが伺えた。

そうしているうちにも名前はその酒を握りしめ、グイッと一気に煽った。
慌てて承太郎はそれを止める。

「おい、もう止めとけ。顔真っ赤だぞ。」

「やっ!もっと飲みたいのっ!離してっ!」

「おいおい、JOJO〜!こんな所で女の子を襲うなよなぁ〜!!
ヨッ!この色男っ!」

それに対してポルナレフから少しズレたヤジが飛んでくる。
そろそろ止めないと収拾がつかなくなると感じた承太郎は、本気で名前が手に握った酒を奪おうと力を込める。

「名前、これは酒だ。明日起きれなくなるぞ。手を離せ。」

そして承太郎は彼女の手から力づくで酒の缶を奪ってしまった。
名前は空っぽになった自分の手を見て、そして目の前の酒を奪い取った男を見つめる。

あ、ヤバイ

承太郎がそう思ったときには彼女の大きな瞳には涙の膜が張っていた。

「うぇえええ〜ん!じょーたろが、じょーたろーが私のジュースをとったぁ〜!!」

ヒーン、ヒーンとまるで子供のように泣き初めてしまった彼女を前にして承太郎は完全に硬直する。

「あ〜!!ワシの孫が女の子を泣かしてる〜!!」

目ざとく見つけたジョセフが指を指して指摘してくる。
どうやら彼は顔に出ない質だったようでしっかりと酔っていたようだ。

あまりのドンチャン騒ぎに承太郎は思わず手で顔を覆う。


「んじゃあ次行くぜ次―!!」

顔を真っ赤にしながら大声でそう言うポルナレフを制そうと承太郎は身を乗り出す。
だが酔っ払いどもの勢いを止めることは不可能だった。

「おい、もうやめ、「せーの、王様だ〜れだ!!」

承太郎以外の全員が一斉にくじを引く。
先ほどまでワンワンと泣いていた名前もいつの間にか真っ赤な顔に満面の笑みを浮かべている。

「承太郎!君!一人だけやる気がないのは困りますよ!全く君はいつもいつも___」

一つ余ったくじを酔っぱらった花京院が承太郎に投げつける。
たいして力がこもっていなかったそれはペシン、と情けない音を立てて承太郎の身体にぶつかったかと思うと床に落ちる。
どうやら花京院は酔っぱらうと説教臭くなるらしい。
絡まれたくなくて承太郎は少し距離をとる。

「フッフッフッ、漸くきたようだな。俺の時代が!!」

ポルナレフは高らかに叫んだと思うと先端が赤く塗ってあるくじを誇らしげに見せびらかす。

「@番がA番にチュー、しやがれぇ!!」

酔っ払い共のテンションはいまや最高潮となっており、その命令にヤジやら口笛やらが舞っている。
確か、先ほど花京院が自分に向かって投げつけてきたくじの番号は……。

(A番…)

ヒヤリと背筋を冷たいものが通り抜ける感じがした。
そして先ほどの自分の祖父とアヴドゥルの悪夢のような絵を思い出し、ゾッとした。

「あ〜、私、@番だぁ!」

その声に承太郎はピクリと反応する。

「え〜!?名前が@番!?俺、俺とチューしよーぜっ!」

「なに言ってんの〜。ポルナレフは王様でしょっ!めっ、だよ!めっ!」

酔っぱらった勢いなのか、はたまたそういう作戦なのかは分からないが、「チューしようチュー」と彼女に迫るポルナレフに我慢ならなくなった承太郎は床に落ちたくじをとってバン、と机に叩きつけるようにして皆の前に晒す。

「ひっこんでな、ポルナレフ。俺がA番だ。」

そのくじをまじまじと見つめたポルナレフは「なんてこった!」と頭を抱えており、ジョセフとアヴドゥルに至っては言葉はないが何とも恨めしいような無言の視線を向けてくる。
酔っ払いたちは半分酩酊状態であるため、このまま無理やりにでも切り上げて命令そのものをなかったことにしてしまえばいいと承太郎は考えていた。
だがそれは意外な人物の声により制されてしまう。

「じょーたろ、じゃあ、チューする、ね?」

小首を傾げながら上目使いで真っ赤な顔を向けてくる彼女に、ドクンと承太郎の心臓は跳ねた。
己の邪な心を振り払い、承太郎は彼女の行動を制する。

「……名前、お前は今酔っている。こんなことをする必要はない。」

ソファの上で無言の攻防が繰り広げられる。
承太郎がソファの端へ寄れば、その分名前は彼の方へと詰めるようにして横に座った。

「承太郎、往生際が悪いですよ。それでも男ですか。だいたい君はいつもは男気溢れているクセして___、」

再び花京院の説教が始まったことに承太郎は顔を歪める。
もうこれは一層のことさっさと済ませてお開きにした方が早いかもしれない。

「じょーたろ、ちゅー。」

何より目の前の据え膳な状況を前にして、これ以上我慢する理由もなかった。
己の肩に添えられた小さな手にゴクリと唾を飲み込む。
そしていよいよ彼女の顔が自分の目の前へと迫ったとき___、

「………ぐー。」

突然己に寄りかかるようにしてぐったりと力をなくした彼女を承太郎は慌てて支える。
その呼吸音から、どうやら彼女は眠ってしまったようだった。
よくよく周りを見てみれば、先ほどの大騒ぎはどこへやら、全員床やらソファやらでダウンしていた。


「…………もう二度と、王様ゲームなんてやらねぇ。」

承太郎は己の胸の中で眠る彼女を見て、一人呟いたのだった。