▼ 私と甥と、叔父と。
空条・名前・ジョースター。16歳。
苗字を見てもらえば分かるように空条承太郎の妹だ。
といっても彼とは本当の兄弟ではない。
生まれたときから奇妙な力を持っていた私は物ごころつく前に両親から気味悪がられ、捨てられた。
幼少期をアメリカの小さな施設で過ごした私はその力を必死になって隠した。
それこそ再び捨てられないために幼いながらも必死だったのだ。
だがある時を境にそんな運命は一変する。
奇妙な力を持つ私を是非引き取りたいと言ってくれた男が現れたのだ。
それがアメリカの不動産王のジョセフ・ジョースターだった。
そんなジョセフの元で過ごすうちに自然と交流ができたのは、ジョセフの実子ホリィさんとその息子承太郎さんだった。
私が初めて承太郎さんに会ったとき、彼はまだ10代、私は小学生だった。
当時バリバリの不良であった彼だが私に対しては本当の妹のように接してくれた。
誰に似たのかその頃から人一倍行動力があった私は一人で飛行機に乗って日本に遊びに行ってその度に父に怒られたものだ。
幼い頃から空条家に入り浸っていた私は、いつしか空条・名前・ジョースターなどと言う長ったらしい名前を名乗ることになった。
一見怖そうだが実は優しい承太郎さんを私も本当の兄のように慕った。
それは彼がアメリカの大学に入学してからも、SPW財団に就職してからも変わらなかった。
そんな承太郎さんが、不可解な出来事が起こっているという日本の杜王町へ調査に行くと言ったときは慌てたものだ。
私だって一週間とか一か月とかそこらならガタガタ言ったりしない。
だが承太郎さんは下手すれば半年は帰って来られないかもしれないなどと言い始めたのだ。
何しろ私は物ごころつく頃から養父である父を差し置いて承太郎さんに懐いていた。
それは今でも変わっていない。
そんな彼と離れることが嫌でかなり無理やりついてきてしまった。
杜王町に着いた頃はいままで通り承太郎さんの傍に居られればそれでよかった。
兄ながら、彼以上に格好いい人間など存在しないと思っていた。
だが私は出会ってしまったのだ。
彼、東方仗助に____
彼を見た瞬間今まで感じたことのない感覚が身体の中を走り抜けた。
そう、ひとめぼれをしてしまったのだ。
気が付いたら私の行動は早かった。
元々思い立ったら即行動しないと済まない質なのだ。
同い年という特権を使ってあれやこれやという方法でアプローチをし、めでたく私と仗助君は恋人同士となることができた。
影で応援してくれた億泰君と康一君には頭が上がらない。
だが一つの懸念事項があった。
私は承太郎さんに仗助君と付き合っているということを未だ話していないのだ。
◇◇◇
「やっぱやべーよ、名前。
自分の留守中に男連れんだって承太郎さんに万が一にも知れたらよぉ…。」
「大丈夫だって!仗助君は心配性なんだから。
承太郎さんは今日は夜まで図書館で調べものするって言ってたから絶対帰って来ないよ。」
「いや、だからマズイんだって!
おめーを溺愛している承太郎さんにこんなこと知れたらよぉ、俺明日の朝日を拝めるのか心配で…。」
ここは杜王グランドホテル324号室。
私と承太郎さんが宿泊している部屋だ。
せっかくの日曜日、本当は海へ行く予定だったのが、残念なことに雨に降られてしまったので海から近かったこのホテルに慌てて飛び込んだのだ。
恐らく仗助君は承太郎さんがいると思ってここに来たのだろう。
だが承太郎さんは不在。
それに慌てた仗助君は落ち着かないように視線を彷徨わせていた。
いつも猫背な仗助君は、今だけは何故かピシッと背筋を伸ばして緊張したようにソファに腰かけている。
できるだけ傍に居たくて私は仗助君の隣に腰かけた。
その瞬間彼がより一層その身を固くしたことが分かる。
「どうしたの?仗助君?」
「い、いや…!なんでもねーよ。」
ここに来てからの仗助君はどうも様子が変だ。
そんな彼の気持ちも知らずに大好きな彼にもっと近づきたくて、今は姿勢よく膝に置かれている太い腕に自分の腕を絡ませる。
「な、なんか近くねぇか…?」
「………ダメ?」
「っ…い、いや。駄目じゃあねぇけどよ……。」
再び視線を彷徨わせ始めた仗助君になんだか不安な気持ちが浮上する。
思ったことを割とすぐに言葉にしてしまう性格の私はポツリと呟く。
「仗助君…、私のこと嫌いになった…?」
その言葉を聞いた仗助君は、今まで彷徨わせていた視線を驚いたようにこちらへ向ける。
「はぁ!?な、なんでそういう話になるんだよ…。」
「だって…、仗助君あんまり楽しそうじゃないし……。」
「そ、そんなことねぇよ。これには理由が…。」
「どんな理由?」
ズイと仗助君の腕にくっついたまま彼の顔を覗き込む。
「そ、それは……、」
「仗助君…。」
「うっ…、名前……、あ、あんまり俺に、近づかない方が…、」
私が顔を近づければ、彼はその分顔を後ろに反らす。
これでは埒が明かない。
私は思い切って彼の膝を跨ぐように座る。
「お、おいっ!名前…っ!な、なにを…!?」
焦る仗助君を無視して私は彼の唇に思い切り口づけた。
「ぷぁっ!ふふっ!びっくりした?」
「……………。」
「あれ?仗助君?おーい。」
顔の前で手を振るが反応がない。
柔らかそうな頬を両手で包もうと彼の顔に手を伸ばす。
その時だった。
顔へ伸ばした両手がガシリと彼の両手に掴まれたと思ったら、あっという間に視界が逆転した。
天井を背景に仗助君の整った顔が見える。
そう、私は座っているソファに思い切り押し倒されたのだ。
その顔は笑っておらず、どこか余裕がなさそうにも見えた。
「っ!じょ、仗助君…!?」
「……名前がいけないんだぜ。挑発するようなことばっかりしやがって…。」
熱っぽい仗助君の視線に目を奪われる。
理性と本能がせめぎ合っているような表情だった。
私は先ほどは彼の手に掴まれてしまった両手をその頬に添える。
「………仗助君なら、いいよ」
その言葉に仗助君は驚いたように目を見開いたかと思うと顔を近づけてくる。
「…っ!知らねぇからな…。」
今度はどちらからともなく口づけた。
仗助君の舌がヌルリと口の中に入ってくる。
「ん…、はぁ…ん、」
二人の間から漏れる濡れた音に恥ずかしくなる。
キスに集中している間に服がまくり上げられ、プツンと音がしたかと思うと胸を押さえつけていた感覚が消える。
仗助君の大きな手が私の胸に直接触れる。
「ぁ…、じょ、すけ…くん、」
「…名前、好きだ。」
「わたしも…、好き。」
その時だった
____ガチャリ
「…なんだ?電気くらいつけろ、名前……………、」
突然明かりが点いた室内。
それよりも入ってきた人物に私も仗助君も目が点になる。
入ってきた人物もソファで重なりあっている私たちを見て目を点にしている。
仗助君によってまくり上げられて露わになっていた胸元を慌てて整える。
「じょ、承太郎さん…。こ、これには訳が……!」
仗助君は上ずった声で話し始めるが、この状況は誰がどう見たって言い訳にしかならないだろう。
帽子が影になってしまい承太郎さんの顔が見えない。
だが私には分かる。
これは嵐の前の静けさというやつだ。
「_____仗助、」
(あ、これは。)
静か過ぎる声色は今まで何度も聞いたことがある。
これは承太郎さんがマジ切れしているときの声____
「歯ァ喰いしばりな」
その後仗助君がどうなったかは想像するに難くないだろう。
だが最終的に私たちの関係は承太郎さんに認めてもらうことができた。
ある意味結果オーライだとでも言うべきだろうか。