starry heavens | ナノ

AM6:00 
私は早めに起きてホリィさんのお手伝いをする。

「もう、名前ちゃんったら。もっと寝てていいって言ったのに。」

「そんな訳に行きませんよ。泊めて頂いているだけでなくご飯までごちそうになってしまって…。こんなことで恩を返せると思ってはいませんが、少しでもお役に立てたら…。」
そう言う私の背中をホリィさんはポンと叩く。

「恩返しなら、将来承太郎とあなたの子供をこの手で抱くことかしら?」
その言葉に私の頬はボッと真っ赤に染まる。

「もっ…もう!ホリィさん…、
……あれ?具合、悪いですか?なんだか、顔が赤いですよ…。」

「そうかしら…?ほんのちょっぴりだるいような気もするけど…。大したことはないわ。ただの風邪よ、風邪。
さぁ。皆が起きてくる前に朝ご飯を作っちゃいましょう!」

元気に振る舞っているがそういうホリィさんの顔はやはり真っ赤だ。よくよく観察してみれば額には結構な脂汗をかいているように見える。
やはり休んだ方がいい。そう思った私は彼女に声をかけようと近づく。

「……え、」
それは突然だった。グラリとホリィさんの身体が傾いたかと思うと重力に従い床へと向かう。
私は咄嗟に彼女の頭と床の間に手を差し入れて、その頭を守る。

「っつぅ!!」
ガンッという何かを打ち付けたような音がして同時に私の手の甲にも痛みが走る。意識のない人間の頭と言うのは存外重いものだ。だが自分の痛みなど気にしている場合ではない。
すぐに誰かを呼ばなければ___

「だ……だれか……!!」
思い切り叫んだつもりが喉から出てきたのは、震えたような声だけだった。自分でも思った以上にこの状況に動揺している。

「____誰かっ…!」

今度の声は届いたらしい。バタバタと台所に入ってきたのはアヴドゥル、ジョセフ、そして承太郎の三人だった。その顔は逆光になっていて見ることはできない。

「ホ…ホリィ、さんが…っ、突然っ!?!?」
私が紡ごうとした言葉は言葉にならなかった。

「JOJOっ!?何を…!」

「承太郎!!止めろ!!」
慌てて承太郎さんを止めようとする二人。目の前には鬼のような形相をした承太郎さん。そして首への圧迫感。
私は唐突に理解した。承太郎さんが私の胸倉を掴んで無理やり立ち上がらせたのだ。
何故突然こんなことをするのか。それは承太郎さんの表情が全てを物語っていた。


「ゲホッ!ぅ…じょ、うたろ…さ、」



_____私は今、承太郎さんに敵意を向けられている


承太郎さんは普段顔にこそ出さないが、とても愛情深い。それが母親ともなれば特別だろう。その証拠に今の承太郎さんはいつもの冷静さを欠いていた。
たぶん一緒に居た私がホリィさんに何かしたのではないかと疑っているのだ。




_____承太郎さんが私を疑っている


意図せず頬に生暖かいものが伝った。
ただただ、悲しかった。
好きな人に信じてもらえないことがこれ程までに辛いとは思わなかった。

それを見た目の前の承太郎さんは目が覚めたかのようにハッと目を見開く。そしてその掴んだ胸倉をゆっくりと緩めた。


「落ち着けJOJO!!これはホリィさん自身のスタンドの仕業だっ!名前を離せ!!」
アヴドゥルさんが承太郎さんの腕を掴みその手を引っ張る。すでに力の緩められていたその手は簡単に私の胸元から離れていった。

冷静さを取り戻した承太郎さんはバツが悪そうに私とホリィさんを交互に見ている。
そうだ、泣いている場合ではないのだ。頬を伝った涙を服の袖でグイと拭う。

「ホリィさんと朝ごはんの準備をしていたら、急に…。顔色が悪かったので休むように、言ったんですが…。
ごめんなさい…。」
真っ直ぐ承太郎さんの顔を見れなくて目線を下に下ろす。


まるで地に足がについていないような感覚だった。




◇◇◇
ホリィさんを布団に寝かせて私たちは彼女の身に一体何が起こっているのかを聞いた。
彼女に現在起きている症状は、自らのスタンドが身体に馴染まない故に起きているものであるということをアヴドゥルさんは瞬時に判断した。
症状を改善するためには彼女がスタンドを発現する原因となった『DIO』を倒さなければならない。
だいたい50日前後でスタンドはホリィさんの身体を蝕み、そして_____



「死」


今まで生きてきた中何度も聞いてきた言葉だった。
だが、これ程までに身近に感じたのは初めてだった。

「……ホリィさん」
その表情は苦し気で、高熱のためか額には大量の汗をかいている。
そんな彼女の様子が見ていられず、私はトイレに行くフリをして部屋を後にした。