starry heavens | ナノ

意識を失った名前を抱えながらホリィが用意したという彼女の寝室へ彼女を運ぶ。無論承太郎はこの役目を自分からかって出た訳ではない。
ホリィの「名前ちゃんを寝室に運んであげて」という圧力を受けて、引き受けざるを得なかったのだ。

(……軽い)

自分の腕の中にいる少女は完全に意識を失っており脱力しているが、それでも承太郎からすれば軽すぎた。
こんな小さな身体で足を吹き飛ばされながらも、彼女は必死に戦い自分を守っていた。
あれを見せられては彼女が未来から来たという話を信じざるを得ない。

両手が塞がっているため足で障子の扉をバンと開き、敷いてあった布団へ彼女を寝かせる。布団を下にしてしまったのでその辺にあるブランケットを適当にかけてさっさとその場を後にしようとするが、何かにクイッと引っ張られる感覚に承太郎は足を止める。

「オイ…てめぇ起きて…」
彼女はスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。自分の服の裾を掴んだ小さい手を外そうとその手に触れる。



「…じょ、たろ…さん……。いかないで…、じょうたろうさ…」
ハッとして彼女の顔を見やる。
確かに眠っているのであろうがその両目からは涙がポロポロと溢れていた。

「……。」
彼女が言う『承太郎さん』というのは間違いなく未来の俺のことだろう。
何故なら彼女は一度として自分のことを名前で呼んでいないからだ。きっと自分とどのように接すればいいのか分からず戸惑っているのだろう。それは彼女の今までの態度からしても察することができた。

目の前の女と、未来の俺は一体どういう関係だったのか。先ほどの映像からあの後何が起こったのかを想像するのはたやすい。
たぶん俺は、この女と……。

承太郎はハァと大きくため息をつく。
今の自分がしでかしたことではないが、自分であることには変わりない。
意識するとどうしてもブランケットから覗かせている白く細い足や、涙を流して紅潮した頬に艶めかしいものを感じてしまう。
その足はあの映像で吹き飛ばされていたにも関わらず、傷一つなかった。未だ涙を流す彼女の手を無理やり振り払う気にもなれず結局承太郎はその場に腰を下ろした。


◇◇◇

夢を見た。

爆発する最後の瞬間に結界越しに見た、承太郎さんの表情。
深い緑の瞳は驚きと、焦燥と、悲しみと、いろいろなものを混ぜた色を称えていた。
泣きだしそうな彼の表情を見て私は必死になって叫ぶ。



_______承太郎さん 私はここにいるよ


必死になって彼に追いつこうと走るが足は鉛のように上がらない。

未来へと歩きだす承太郎さんはこちらを振り返らない。





_____行かないで 承太郎さん


私の声は届かない。



















「……イ!オイ!大丈夫か!?」
フワっと身体が軽くなって意識も共に浮上する。

「う…っじょ、たろうさ…ん」
私を上から見下ろしている承太郎さんの首に両手をかけて抱き着く。


「行かないで…、行かないで、承太郎さん…!」


「…………………俺はここにいるぜ。」
ポンと頭に乗った手は確かに承太郎さんのもので、酷く安心した。



◇◇◇

「寝ぼけていました、すみません」果たしてそれで済まされるだろうか。
あろうことに私は承太郎さん?を承太郎さん?と勘違いして情けなく泣きわめきながら抱き着いてしまった。
彼は何も言うことなくずっと抱き着かれたままでいてくれたらしく、夢と現実の区別が徐々につくようになってくると私はその現実に再び意識を失いそうになったのだった。驚きのあまり眠気は吹き飛んだ。
壁にぶつかる勢いで慌てて離れた私を見た彼は、帽子の鍔を下げて黙って部屋から出て行った。

(あの癖は昔からあったんだ)
彼が紛れもなく承太郎さんであるという共通点を見つけて嬉しくなる。


だが……、

「絶対気持ち悪い奴だって思われた………。」
なんだがまた泣きそうだった。