starry heavens | ナノ

場所を移動しここはカフェ。
生まれてからずっと田舎住まいだった私にとってはとても洗練された雰囲気のあるカフェだった。

そこでジョセフさんから聞かされた話は『DIO』という男とジョースター家の因縁について。
私はすでに一度聞いた話であったがこれは現在進行形で起こっている出来事なのだ。
私も緊張した面持ちでジョセフさんの話を再度聞いた。


「じじい。信じがたいことだが話は分かった。で?そこの女は一体何者なんだ?俺たちになんの関係がある?」
ホリィさんの影に隠れるようにして小さくなっていた私は、ビクリと肩を震わせる。
恐る恐るそちらに目を向けると承太郎さんの鋭い瞳とバッチリ目が合ってしまった。
彼にこのような警戒した視線を向けられたことがなかったため萎縮してしまう。

「彼女は苗字名前。お前も言っていた通り彼女もスタンド使いじゃ。
それにな、承太郎。スタンド使いとしては彼女の方がワシやお前より先輩なんじゃぞ。」

「なに…?」
その言葉にますます承太郎さんの視線が鋭くなる。

(ジョセフさん!何故煽るようなことを〜!)

「ま、待ってください…!私だってスタンドが発言したのはつい半年前なんですっ。まだペーペーもいいところですよ!
それにスタンドについて教えてもらったのだって承太郎さんから………あっ!」
思わず自分の失言に口元を抑える。だが勘の鋭い彼がそれについて見逃してくれるはずもない。

「…ちょい待ちな。お前、今『俺』がおまえにスタンドについて教えてやったみたいな言い方をしたな…?」

「そ…それは、」
咄嗟に彼の真っすぐな視線から逃れるように目線を下に落とす。

「とぼけるんじゃあないぜ。そう言えばお前、留置場にいたときも俺の名前を呼んでいたな?何故お前は俺を知っている。はっきり答えてもらうぜ。」

(どうしよう…。)
承太郎さんの性格からして納得のいく答えが得られない限り引くことはないだろう。それにその場しのぎの嘘をついたとしても勘の良い彼なら絶対に見破ってしまう。
ソロリと承太郎さんの方へ視線を向ける。

「っ!!」
その目は真っ直ぐに私を射抜いており、真実を要求してきている。
そもそも初めから私が承太郎さんに対して嘘をつけるはずがないのだ。私は言葉を紡ぐことができなくなってしまった。

そんな私の変わりにホリィさんが口を開く。

「名前ちゃんはね、10年後先の未来の世界から来たのよ。」
ホリィさんの超直球に私の目は飛び出しそうになる。なんやかんやでこの人もやはりジョースターの人間だということを痛感する。
案の定承太郎さんは「何言ってんだ、コイツ」みたいな視線をホリィさんに向けている。
居たたまれなくなったジョセフさんが救いの手を差し伸べる。

「オホン!えぇっとじゃな…。ホリィが言ったことは信じがたいかもしれんが本当じゃ。そこにおる名前は確かに10年後から来たと信じて良いと思っておる。
何故なら出会ったこともないワシの名前を彼女は見事に言い当てたのじゃからな!」
どうだと言わんばかりにジョセフさんは誇らしげな顔をしている。
だが承太郎さんはため息をついたと思うと冷たい口調で言い放つ。

「…じじい。てめぇ、何寝ぼけたこと言ってやがる?
『名前を知っていた』たったそれだけのことでアンタはコイツの未来からきたという突拍子もない話を信じるというのか?呆れてものも言えないぜ。
そういうスタンド能力かもしれないいうことは考えなかったのか?」

「!!」
言われてみて一同はハッとする。
確かにそう考え始めるとキリがない。むしろ承太郎さんが言った仮定の方が現実的であり少し真実味がある。
やはりどう考えても未来から来たなどという話は嘘くさい。
全員の視線が突き刺さり私は思わず涙ぐみそうになる。

(だめだ、ここで泣いたって何も解決しない…。)
咄嗟に私は自分のスタンドを発現させる。

「な…っ!?」
驚いた承太郎さんも咄嗟に自分のスタンドを出現させる。
スタープラチナは警戒したように私のクリスタル・ミラージュを見ていたが特に何をしてくる訳でもない。
「ピィイ!」と高らかな声を上げて出現したイルカは嬉しそうにフヨフヨと私たちの周りを飛び回る。

「私のスタンドです。能力は結界を出現させる。防御型のスタンド。できることはそれだけ。
他にはなにもない、です。」

漂うイルカに一同は毒気を抜かれたのかジィーとその姿を見つめていたが、承太郎さんだけは変わらず私を真っ直ぐに睨みつけていた。
当たり前だ。警戒心の強い承太郎さんのことだ。別の能力を隠しているにきまっていると考えるのが当然だろう。

ありえないことだがもしここに露伴先生がいてくれたなら、あの能力で私が未来から来たということを証明できるというのに。


(一体どうすれば……。あっ!)
私は思いついてしまった。もはやこれ以外に方法はないだろう。
ちょっと嫌だがこれなら完全に私が未来から来たということを信じざるを得ない。

「…ジョセフさん。ジョセフさんのスタンドは『念写』。確かそうでしたよね?」

「ん?ああ…。確かにワシの能力は念写じゃが…、あっ!!」
そうジョセフさんのスタンドなら私の頭の中を覗くことができるのではないかと考えたのだ。

「なるほど。ジョースターさんの能力なら彼女の記憶を覗くことができるかもしれない。だがどうやって…?」

「テレビじゃ!テレビをつなげてみればいいんじゃあ!」






◇◇◇

早速実践するべく私たちは空条家へと戻ってきていた。
テレビの前には緊張した面持ちで座る私とジョセフさん、アヴドゥルさん、ホリィさん。そしてその後ろで柱にもたれて立つ怪訝そうな顔をした承太郎さんがいた。

「よいか…!名前…」

「は、はいっ!いつでもオッケーです!!」
そう言ってジョセフさんは私の頭とテレビをそれぞれ片手に触れて、紫色の茨を出現させる。
ジョセフさんが力を発動させてテレビに何かが映し出されたと思った瞬間、私の意識は突然遠のく。

「むっ!名前!?」

「きゃあ!名前ちゃん…!一体…っ!?」
ドサリと重力に従い床に倒れた名前に驚いたジョセフは自らの能力を解こうとする。

「オイ、じじい!待てっ!そのまま続けろっ!!」
承太郎の強い口調にジョセフは能力を解く判断を一瞬遅らせる。そしてテレビに映し出された見覚えのある光景にジョセフだけが目を見開いた。

「っ!!!ここは、確かに…、杜王町じゃ……」

「なに?じじい。てめぇこの場所を知っているのか?」

「………いや、その。」
まさか、まさかの可能性にジョセフは今度は別の意味でヒヤヒヤとし始める。次の光景が映し出された瞬間ジョセフは確信する。
彼女、名前の言っていたことは全て真実であったのだと。

「…これは……?」

「まぁ…友達、かしら?名前ちゃんの。それにしてもこの子、承太郎と似ているわねぇ〜。」

「………。」

承太郎だけは無言でその光景をじっと見つめている。
映し出されていたのはガラの悪そうな男子高校生二人とその間にいる名前本人。三人はとても仲良さげに話していた。何を話しているかまではノイズが混ざってしまっていてよくわからない。
その男子高校生のうちの一人、リーゼントをした方は承太郎が自分でも感じる程に自分に似ていると思った。
チラリと先ほどから無言のジョセフを見やると、彼は謎の汗を掻きながら食い入るように画面に見入っていた。

そして場面はガラリと変わる。その瞬間一同はゴクリと喉を鳴らして目を見張った。


「じょ………承太郎!?承太郎だわ…!間違いないわ!」

「た、確かに……。今より年をとっているが、間違いなくこれはJOJOだ!」

白いコートに白い帽子を被った青年。今より少し大人びているがそれば間違いなく承太郎本人だった。
承太郎自身は信じられないような面持ちでその光景を見る。彼女と共にもう一人小さい少年がいる。どうやら三人は何かから攻撃を受けているようだった。
少女を守りながら戦う未来の自分。未来の自分は見知らぬ他人のためにこれほど献身的に働くのか。
いや、未来の俺からしたら他人ではないのかもしれないが。


「きゃぁ!!承太郎が!!」
しばらく見ていると未来の俺は一瞬のうちに大けがを負った。自分と同じ顔をした奴が怪我をするのはなんだか嫌な気分だ。
それにしても自分は画面から一瞬たりとも目を離さなかったというのに、いつのまにか怪我を負って血が吹き出ていた。
まるで『時が止まった』ような感覚だ。

その後の光景にホリィは泣きながら目を逸らし、アヴドゥルさえも眉をしかめながらその様子を見ていた。
目の前の少女、名前は足を吹き飛ばされながらもその小さい身体で、懸命に未来の承太郎を守ろうとしていた。承太郎は目を逸らせなかった。
テレビ越しに映る彼女は先ほど承太郎に怯えていたことなど感じさせない程、凛々しかった。何が何でも守る、そういう迫力が画面越しでも伝わってきた。
ノイズが走り再び画面は切り替わる。


ここはホテルの一室だろうか。そこに移る未来の自分と少女。二人ともベッドの上に座っている。
なんだか怪しい雰囲気で今度は別の意味で喉を鳴らす。
承太郎は内心ヒヤヒヤしていると、案の定未来の俺は少女をベッドへと押し倒してその小さい身体の上にのしかかった。


「____あ、」

ホリィは一瞬声を上げたかと思うとすぐにブツンと画面は消えて、それから何も映ることはなかった。


承太郎は開いた口が塞がらなかった。変な汗が背中を伝う。未来の俺は一体何をしでかしてくれたのだろう。
まさかこんなまだ年端もいかない女に襲い掛かるなど。一瞬、ロリコンという言葉が承太郎の中で駆け巡るが自分にその毛はないはずだ。きっとなにか理由があった。そうに違いないと無理やり自分を納得させることにする。


「「「…………。」」」


それは周りも同じだった。ジィっと承太郎と名前を交互に見たかと思うと、さまざまな思いがそれぞれの中を駆け巡る。そして何故かジョセフにポンと肩を叩かれる。


「……まぁ、なんだ。未来のお前は少なくとも20後半くらいだったが、今のお前はピチピチの17歳じゃ!名前との年の差も1歳しかない!気にすることはないと思うぞ!」

「ジョースターさん…。それはフォローになっていないかと…。」

ホリィと言えば顔を真っ赤にして「承太郎も大人になったのね…!」「可愛いお嫁さんで嬉しいわ!」などときゃあきゃあと一人で騒いでいる。



収集のつかない事態に承太郎はお決まりの台詞を呟くしかなのだった。

「………やれやれだぜ。」