starry heavens | ナノ

私は現在承太郎さんが拘留されているという留置場に来ていた。

ジョセフさんたちは私のことを始めは連れて来るつもりはなかったようだが、私がスタンド使いだと知って承太郎さんを留置場から出すのに役立つかもしれないということで一緒に行くことになった。

承太郎さんに会える。
それは素直に嬉しかった。しかし同時に怖かった。承太郎さんは私のことを知らない。どのように接すればいいのか分からなかった。







「承太郎!おじいちゃんよ!そこから出てきて!」
暗く長い廊下を進むうちに承太郎さんの牢屋の前についたようだ。
前にいるジョセフさんの大きい身体に遮られて承太郎さんの姿は見えない。


_____コツコツという音は承太郎さんがこちらに近づいてくる音か。


「出ろ。帰るぞ。」

「消えな。お呼びじゃあないぜ。」

(っ承太郎さんの、声…!)
思わずジョセフさんの後ろから牢屋の中にいるのであろう彼を覗き込む。

「…あれ……?」
彼の姿を視界に止めた途端驚きのあまり声を出してしまう。

「……?なんだてめぇは。」
なんか、全然違う。
いや、正確には顔も瞳の色も背の高さも間違いなく承太郎さんだ。
だがその他人を威圧する雰囲気とか、ギラギラとした瞳は私が知っている承太郎さんとは違った。

そう言えばジョセフさんが言っていた。承太郎さんは若い頃相当荒れていて、今では随分と落ち着いたのだと。

(これが荒れていたときの承太郎さん…)
ゴゴゴゴゴと背後から音がしそうなほどの威圧感を感じて思わずゴクリと喉を鳴らす。
その時承太郎さんの背後から見覚えのある青い腕が、ジョセフさんの左手の小指の義手を奪っていった。

(…スタープラチナ!)
間違いない。
あれは何度も自分を助けてくれたスタープラチナだ。だがなんだろう。
気のせいかもしれないが承太郎さんの意志を無視して独立して動いているような感じがした。

「俺に近づくな。残り少ない寿命が縮むだけだぜ…。」
そして承太郎さんは扉を閉じて再び牢へと戻ってしまった。
今のは承太郎さんなりの警告なのだろう。
なんだかんだで彼は他人を傷つけないために自らここに入って居るのだ。
見た目は私の知っている彼と違うし性格もツンケンしていて近寄り難い雰囲気があるが、優しいところは変わっていないのかもしれない。

「…仕方がない。アヴドゥル!承太郎を牢屋から出せっ」
ジョセフさんが呼ぶとずっと後ろに控えていたアヴドゥルさんが前に出てくる。

「3年前にエジプトで知り合った友人、アヴドゥルじゃ!」

(そう言えば私は二人のスタンドをまだ見ていない…。)
正直興味はある。スタンドは精神のビジョンとはよく言ったものだ。全くもってその通りだと思う。それぞれの能力にそれぞれの人間性が良く出ている。
現れたアヴドゥルさんのスタンドは『マジシャンズ・レッド』と言った。熱と火炎のスタンドなんてかっこいい。
そして激しい炎の攻撃に、意外と彼は熱くなりやすい性格なのかとも感じた。炎で承太郎さんを拘束したかと思うと壁に貼りつけにする。

「あっ!!」
条件反射でスタンドを出しそうになる私をジョセフさんが止める。

「むぅう〜、出よったわ!まさかこれほどはっきりとした姿で見えるとは…。恐るべき承太郎のパワー!」

(な、なんかあの『スタープラチナ』すっごい悪い顔してるっ)
本体である承太郎の精神に影響しているのだろうか?
冷静沈着で無表情なイメージのあるいつものスタープラチナからは想像できないような悪い表情だった。
ニヤリと笑ったスタープラチナはマジシャンズ・レッドの首をガシリと掴む。

「貴様も俺と同じようなパワーを持っていようとは…。そしておじいちゃん、あんたはこれの正体を…。」

「知っている!だが悪霊の姿がこれほどはっきり見えるということは相当なパワーだ。」

「ジョースターさん!予想以上のこのパワー、下手をするとこちらがやられかねない…。かなり荒っぽくやらざるを得なくなりますが…、やりますか!?」

「……構わん!やれっ!」

「ちょ…!ジョセフさんっ…」

「名前。君は下がっておれ。今が承太郎にとって一番大切な時なのじゃ。
それにアヴドゥルの『アレ』が出るぞ。君はスタンドでホリィを守ってくれ。」

「アレ…?」
聞き返そうとした瞬間に留置場内の温度が一気に上がったような感覚を受ける。私は慌てて自分とホリィさんの前に結界を作った。

「『レッド・バインド』!!」
凄まじい熱量にジリジリと周りの空気が湯気をあげている。ここまでは『クリスタル・ミラージュ』の結界があるため熱は伝わってこないが。
スタープラチナの姿が徐々に薄くなっていく。本体である承太郎さんが弱っているからだ。

「承太郎さん…」

「名前ちゃん……。」
思わず彼の名前を出してしまいホリィさんに目を向けられる。もしかしたらホリィさんには私が承太郎さんに抱いている思いに気づかれてしまっているかもしれない。

「俺がここからでねぇのは知らず知らずのうちに他人に害を与えるからだ…。このまま続けるとテメェ、
_____死ぬぞ」

そう言うと承太郎さんは真後ろにあったテーブルを蹴り飛ばしてそのまた後ろにあったトイレを破壊する。飛び散った水はアヴドゥルさんの炎には天敵。残らず消火されてしまった。
自由になったことで再び現れるスタープラチナ。


「テメーっ!!俺はもう知らんぞォ〜〜〜!!」
スタープラチナは牢の檻をいとも簡単にぐにゃりと曲げて、その檻をへし折りアヴドゥルさんへと向けて振りかざす。
私は溜まらず叫んでいた。

「や、やめてー!承太郎さんっ!」

「!?」
自分の名前を呼ばれたことで承太郎さんは一瞬こちらをチラリと見やるが、すぐに視線を目の前のアヴドゥルさんへと移す。

「何故背を向ける。こっちを向け!」

「その必要はない。私の役目は君をその檻から出すこと。もう争う必要性はないのさ。」

「………してやられたって訳か。」
流石の承太郎さんももう檻の中に戻る気はないらしい。
すっかり怯えてしまっている警官の横を通り抜け、そのまま帰るのかと思いきや彼は私の目の前でピタリと立ち止まる。
遥か30センチ上からこちらを睨みつけてくる承太郎さんに私は冷や汗が止まらない。

「え、えっと……、」

「てめぇ、何故俺のことを知っている?見たことのねぇ制服だが、何者だ。それにテメェもこの『スタンド』とやらが見えているようだな。詳しく聞かせてもらおうか。」

思わず後ずさりする私の腕をガシリと承太郎さんは掴む。

(初めて承太郎さんと会ったときも…こんな感じだったっけ。)

最も威圧感はこちらの方が半端じゃないが。早く言えというオーラがビンビンと伝わってくる。
怖くはない。私にとっては懐かしい感覚だった。それ程力の籠っていない彼の温かい大きな手はあの時と変わらない。
だけどこの承太郎さんは、私の知らない承太郎さんなのだ。


ツゥーと私の頬を何かが伝った。

「…あれ?」

「!!オイ…、そんなに力は…」

「きゃあああ!名前ちゃんっ!大丈夫!?ちょっと承太郎!相手は女の子なのよ!そんなに凄んじゃあ駄目じゃない!」

「…承太郎。とりあえずここからでるぞ。もう少し落ち着ける場所で話そう。スタンドのことも、無論『彼女』のこともな。」

「……っち」
ホリィさんに手を引かれて「大丈夫?」と声をかけられながら留置場を後にする。



私の大好きな承太郎さんのはずなのに、違う。
その矛盾とどうしようもない焦燥感に涙が溢れて止まらなかった。