starry heavens | ナノ

「お嬢さんがホリィが言っとった、10年後から来たという子かね?」

「は、はい。ジョセフさ…、ジョースターさん。苗字名前です。」
違う。
全然未来のジョセフさんと違う。
そのムキムキの筋肉は間違いなく10年後のジョセフさんにはなかったものだ。瞳は同じはずなのに感じる威圧感は全く異なる。


ホリィさんは空港にジョセフさんを迎えにいった後、私と彼を引き合わせるために一度空条亭に戻ってきていた。
ジィと穴が開くほどに私を観察してくるジョセフさんに、ゴクリと喉を鳴らす。

「ガッハッハッ!そんなに固くならんでもいいっ!それにワシのことは『ジョセフ』で構わんぞっ!どうやら未来の君はワシのことをそう呼んでおるようだからのぉ!!」

バシンバシンと思い切り背中を叩かれて「ぐえっ」と息がつまる。
ホリィさんはその様子をニコニコと笑って眺めている。
どうやらジョースター家ではこれは日常的なことのようだ。

「ところで、君が未来から来たというのが本当な話ならば…、ここに来る前に何か変わった出来事に巻き込まれたりはしなかったかな?いや、なに、君の言うことを疑っている訳ではないんじゃ。」

一変して真面目な雰囲気になったジョセフさんにゴクリと喉を鳴らす。やはり79歳のジョセフさんとは迫力が違う。


(どこから話せばいいものか…)
別に隠すことではないが記憶に残っている最後の所を説明するにはどうしたって『スタンド』についての説明が必要になる。
最もジョセフさんは承太郎さんの『悪霊』もとい『スタンド』をなんとかするために日本に来たのだ。すでにしっている可能性もあるが。


「えっと、ここに来る前の私はM県S市の杜王町にいました。そこで仲間たちとある事件に巻き込まれて元凶である殺人犯をあと一歩のところまで追い詰めました。
ですけどその殺人犯は最後の力を振り絞って私を道連れにしようとしたと思ったんですけど…。
次の瞬間目が覚めたらホリィさんと会った公園のベンチで寝ていました。」


「……………。」
沈黙が痛い。頼むから何か言ってほしい。

「…一つ聞いてもいいかの?何故ただの高校生である君が殺人犯と戦っていたのか…?警察に任せればいいのではないか?それとも君にも何か特別な力があるのか?」
やはり全てを話さないと納得はしてもらえないだろう。そう思った私はフゥと息をついて話し始める。

「特別な力かは分かりませんが…。私は『スタンド』っている精神が具現化したビジョン?ですか?それを持つ仲間、『スタンド使い』たちと一緒に戦ってきました。
敵も同じく『スタンド使い』でした。警察にはどうすることもできない。だからです。」

その言葉にジョセフは目を見開く。そして突然私の両肩をガシリと掴んできた。

「うわわわわ!な、なんですか!?」

「驚いたわい…!君も『スタンド使い』なんじゃなっ!?」
驚きで私はコクコクと頷くことしかできない。
それに気が付いたのかジョセフさんは「おお、スマン」と言いながら手を離す。そして調度私の後ろに位置する扉の後ろを見て口を開く。

「___アヴドゥル!どう思う?」
ジョセフさんの声に答えるようにして現れた男の姿に驚く。いつからそこにいたのかそれも驚いたが、何よりも私はその顔に見覚えがあった。

「間違いなく『スタンド』の仕業でしょうな。だが奇妙です。このアヴドゥル今までさまざまなスタンド使いを見てきました。しかし10年以上過去に戻してしまうそのような強力なスタンド見たことがありません。
____ああ。申し遅れた。私は『モハメド・アヴドゥル』気軽にアヴドゥルと呼んでくれ。」


「アヴドゥルさん…。苗字名前です。よろしくお願いします。」
思い出した。
彼は承太郎さんが持っていた写真の中で見たのだ。
そして確信した。承太郎さんたちはこの後何らかの理由で旅に出るのだ。
そこで彼らは_____

気を失う前に見たあのうすら寒くなるような光景に少し震える。

それに、以前ジョセフさんから聞いた話だとその旅に出る理由と言うのが、承太郎さんのお母さん、つまりホリィさんを助けるためだったような気がする。
私の命の恩人であるホリィさんが、スタンドにより命の危機に晒される。
チラリと彼女の方を見ると相変わらず傍にいる者をホッとさせるような笑顔を振りまいている。


(この優しい人が、苦しむ…)
そんなことはあってはならない。
出会って一日しか経っていないがホリィさんの人柄はとても良くわかった。穏やかで他人と争うことを知らず、傍にいる人を和ませる優しい女性。
こんな人が苦しみ、命の危機に瀕するなどあってはならないことだ。

「ところで名前、差し支えなければ君のスタンドを見せてもらえないか?私は古今東西あらゆるスタンド使いを見てきた。
何故君が過去に来てしまったのか、アドバイスができるかもしれない。」
アヴドゥルさんの言葉に私は自分の思考を止める。

「そうだな。ワシも見ておきたい。いいか?名前」

「はい。大丈夫です。」
でも私のスタンド本体は透明で見えないのだった。どうやって説明しようか頭を悩ましながら『クリスタル・ミラージュ』を出現させる。

「これは、なんと…」

「まぁ……。とっても可愛らしいわっ!」

「透明な、さかな…?いや、イルカでしょうか…?」

「あれ…!?えっ!?なんで!?」
私は困惑した。
何故ならそこにいたのは空飛ぶ透明がかったイルカだったからだ。
最も全くの透明という訳ではなくうっすらと向こうの景色が空けている程度だ。そしてなかなかにでかい。普通のイルカと同じくらいのサイズがあるんじゃないだろうか。

「…これ、私のスタンドですか?」

「当たり前だろう。他に誰がいるというんじゃ。」

「え…、だって私のスタンドって本当に全くの透明で、いままで姿が見えたことがないんですよ!なんで突然…!?」
恐る恐るそのイルカに手を当ててみると確かに感触があって、これは自分のスタンドだということを理解した。

「何らかの理由で力が増強した影響かもしれないな。何か今までと違う能力が使えたりはしないか?」

「違う能力…。」
アヴドゥルさんに言われて今まで通り結界を出現させてみるが別段変化はない。あれこれやってみるができることは今までと特に変わりなかった。

「むしろ姿が見えるようになったから、逆に狙われやすくなったってことじゃ…?」
なんだそれ。マイナスじゃないか。
私の気持ちを察したのかイルカが「キュゥーン」と寂しそうにすり寄ってくる。その様子があまりにも可愛らしかったのでヨシヨシと頭を撫でてやるとご機嫌そうに空中を泳いでいた。

……可愛いからよしとするか。
ホリィさんが可愛い可愛いと言いながらイルカを撫でているので、私はスタンドを出したままジョセフさんの話を聞く羽目になる。
ていうかホリィさん。感触が私にも伝わってきてこそばゆいのですが。

「なるほど、結界か。防御型のスタンドだな。姿が見えるようになった理由というのは分からないが、きっと何か理由があるはずだ。」

「そうですよね…。」
結局私がこの世界に来てしまったという理由は分からずじまいだった。分かったのは私のスタンド本体がイルカだったということ位だ。

「それにしても何故イルカなんでしょう…?」

「スタンドは君も言っていたように精神が具現化したもの。何かイルカや…もしくは海に関係するもので思い出深いものがあったりしないか?」

「海……。」
心当たりがありあり過ぎて「確かに」と心ない返事を返してしまう。
何が悲しいって海と言ってイルカを連想する自分の想像力のなさにだ。
……まぁ可愛いから良しとするか。(二回目)


「名前よ。名前は決まっておるのか?」

ジョセフさんに問われて迷いなく頷く。


「『クリスタル・ミラージュ』この子の名前です。____承太郎さんにつけてもらいました。」

イルカは「ピィイイ」と嬉しそうに鳴いた。