starry heavens | ナノ

ホリィさんと二人で夕飯を頂きながら彼女の話を聞く。
なんでもホリィさんはイギリス系アメリカ人で旦那さんと結婚して日本に来たらしい。もうこちらに来て20年になるそうだ。道理で日本語が上手な訳だ。
その旦那さんは有名なジャズミュージシャンであり世界を渡り歩いているのでほとんど家に帰ることがないとのことだ。
だから今は息子とほとんど二人暮らしのようなものだと笑って話していた。

「……でも、」
唐突に顔を歪めて泣きだしそうな顔をするホリィさん。

「あの子ったら今留置場の中なのよぉ〜!」

「えぇっ!?」

留置場。
それは私が良く知るあの留置場のことで合っているだろうか。
そんなにやんちゃな息子さんなのだろうか。

「それも自分で望んで留置場のなかに入っているみたいで…、お巡りさんが釈放だと言っても頑なに出てこないのよぉ〜!」

「そ、それはなんでまた…?」
留置場に入ったことはないので私には彼女の息子さんの気持ちはさっぱり分からないが、そんなことをするからには何か理由があるのだろう。それかただの変人か。

「グスン。なんでも『悪霊がとり憑いた』とか言って…。『原因が分かるまでここからでない』って…。」

「あ、悪霊…。」
あれ?なんだか聞き覚えのあるフレーズだぞ?

「『承太郎』ったら一体どうしちゃったのよ〜っ!!」
そう言って机につっぷしてワンワンと鳴き始めるホリィさん。
普通ならここで彼女の背をさすりながら「大丈夫ですよ」とか言いながら慰めるべきなのだろう。
だが私の頭の中は今それどころではなかった。

今、ホリィさんは何と言った?


「あ、あの。ホリィさん。聞き間違えでなければ今、『承太郎』って…?」
承太郎の名前が出た途端ホリィさんは涙をピタリと止めて満面の笑みで私を見返してくる。

「息子よ。承太郎っていうの!とっても背が高くてワイルドでかっこいいのよ!それにとても優しい子なの…。」


「……え、っと」

えっと、整理しよう。
私が来たのは10年前の世界。公園でホリィさんに拾って貰った。そして彼女には、空条承太郎という名の息子がいる。
つまりホリィさんは、承太郎さんの、

「承太郎さんのお母さん〜〜〜!?!?」
その叫びにホリィは一瞬キョトンとした顔を向けるがすぐにパァアと顔を輝かせる。

「まぁ!承太郎を知っているの!?」
とても良く知っています。

「…知っていると言っても、私が知っている承太郎さんは10年後の28歳の承太郎さんですけど……。」
それを聞いたホリィさんはさらに目を輝かせる。


「10年後の承太郎!?まぁっ!それは今より更にかっこよくなっているんでしょうねぇ〜っ!」
っていうかホリィさん。
私が10年後から来たというのは特に気にしないんですね…。
「写真とかないの?」と問われるが残念ながら持ち物は自分が着ている『ぶどうケ丘高校』の制服以外、何も持ってこられなかったようだ。
それにしても『悪霊』とはきっと『スタンド』のことで間違いないだろう。
そしてホリィさんの話からするに高校生の承太郎さんはスタンド能力に目ざめたばかりのようだ。


(高校生の承太郎さんか…。)
一体どういう感じなのか。私が知っている彼と変わりないのだろうか?


(もし彼女とかいたら、仕方ないこととは言えへこむ…。)
私は承太郎さんのことを好きだが、高校生である彼は違う。むしろ私のことなど何も知らない。
いや、出会うのは今から10年後なのだから知る由もないのだ。そう考えると何かうすら寒いような気持ちが湧き上がる。

「そう、それでね。私のパパが明日ニューヨークからくるのよ。承太郎のことを相談しようと思って呼んだのだけど調度良かったわ!
あなたのことも是非相談してみましょう!こういう奇妙な出来事にとても頼りになる人だから安心して。」


パパ、ホリィさんのお父さんというと…。

「ジョセフ・ジョースター、さん…?」

「まぁ!パパのことも知っているのね!10年後のパパは元気にしているのかしら?」

「…とても元気ですよ。」
元気過ぎてまさか隠し子がいるとは、口が裂けても言えない。