starry heavens | ナノ

「さぁ着いたわ!遠慮せずに上がっていってね。」

第一印象。
でかい。でかすぎる。まるでどこぞの『や』のつく職業を生業としている家のように立派な和風建築だ。
そして門を通されるときにチラッと見えた表札にさらに驚いた。

「『空條』………?」
空条という苗字は結構、いやかなり珍しいと思う。まさかこの家は承太郎さんに何か関係のある家なのだろうか?

「あっ!ごめんなさいね。私は空条ホリィ。遠慮しないで『ホリィ』って呼んで。よろしくね。名前ちゃん。」


太陽のようなホリィさんの笑顔は酷く印象的だった。














____ツーツー

電話口に聞こえる音は無常なものだった。
ホリィさんに早速電話をお借りして自宅へ電話をかけてみるが聞こえてくるのは『おかけになった番号は、現在使われておりません』という機械的なアナウンスだった。
自宅の他に唯一覚えている番号、仗助の家にも祈るような気持ちで電話をかけてみる。

だが聞こえてきたのは同じく無機質なアナウンスだった。

「ど…どういうこと…?」
一気に焦燥感に襲われた私は何度も電話番号を押す。だが何度やっても結果は同じだった。

「あの…!電話帳ってありますか…!?」
横にいたホリィさんに若干食い気味に詰め寄る。私のその必死な形相にホリィさんもただ事ではないと思ったのかすぐに電話帳を貸してくれる。


(杜王グランドホテルに、承太郎さんに…!)
だがそのホリィから手渡された電話帳を見て私は疑問符を浮かべる。

「あの、ホリィさん…。この電話帳十年以上前のものなんですけど…。今年の分ってありますか?」


今度は私の言葉を聞いたホリィさんがキョトンと目をまん丸にしている。
かと思ったら突然爆笑し始めたのだ。


(何か変なこと言ったかな…?)

「あ、あの…、ホリィさん?」

「ウフフッ!ヤダァ〜名前ちゃんったら!十年前のなんて!
それは正真正銘今年届いたばかりの電話帳よ!」


「あーおかしい」そう言いながら笑い続けるホリィさんを見て私は目を見開く。
目覚める前に見た夢の内容を思い出して内心冷や汗をかき始める。


(まさか、まさかだよね?)

「えっと…。念のために聞きますけど、今って『1999年』では…?」
それを聞いたホリィさんは一瞬は笑いを止めたが、再び爆笑し始める。


「何言っているのよ〜!もう!これ以上おばさんを笑わせないで!今は正真正銘『1987年』よ!」


嘘だろう。信じられない。


だが目の前のホリィさんが初対面の私にこのようなどうでもいい嘘をつく理由はない。
今までの不可解な現象もここが十年前の世界だとすれば説明はつく。
吉良吉影の爆発に巻き込まれて死んだと思っていた私は、何故か無事で、しかも十年前の世界にタイムスリップしてしまったというのか。


「……名前ちゃん?」
顔を青ざめさせて何も言葉を発しない私を怪訝に思ったのか、ホリィさんはピタリと笑いを止めて心配そうな表情で顔を覗き込んでくる。


「やだっ!すごい顔色が悪いわよっ!名前ちゃ…、」
私の両眼からポロポロと止めどなく涙が溢れてくる。

私は生きていた。それはとても嬉しいことだ。
再び承太郎さんに会えるのだから。

だがここは私がいた世界よりも10年も前の世界。そして生まれてから数回ほどしか訪れたことのない東京。
例え杜王町に行ったとしてもそこには4歳になる私がいるのだろう。





_____ここには私の居場所は ない

「やだ…。ここはどこなの…!お母さん、お父さん!承太郎さん…っ」


「名前ちゃん……。」


突然泣きじゃくり始めた私を見たホリィはただ無言で私のことを優しく抱きしめたのだった。


(あったかい……)
その胸の中は温かく、とても安心できた。まるで本当のお母さんのようだった。

「大丈夫。大丈夫よ。何も怖いことなんてないわ。」
優しく慰めるホリィさんに私はさらに涙が溢れてくるのを感じた。







◇◇◇

「今日はうちに泊まっていきなさい」というホリィさんのありがたい申し出に、行く当てのない私はコクリと頷いた。

「色々ご迷惑をかけて、すみません……。」
あの公園でホリィさんに見つけてもらえなかったら私はどうなっていたのか。想像するだけでも恐ろしい。

私の暗い表情を見て何かを察したらしいホリィさんは再びギュっと抱き着いてくる。

「わっ!ほ、ホリィさん…!」
同姓同士でもあまり抱き着くなんて激しいスキンシップをしたことがなかった私は、ドキドキとしてしまう。
さすが外国人…。

「気にしなくていいのよ。なんならずーっとうちにいたって構わないわ!貞夫さんもあなたみたいなかわいい子なら大歓迎のはずよ!
それにね、私女の子が欲しかったの。だって一緒に買い物行ったり、お料理作ったりしてみたいじゃないっ」

「男の子はそういう訳にはいかないものね」そう言うホリィさんは少し寂しそうだった。

「あの…息子さんがいらっしゃるんですか?」

「ええ!調度あなたと同じくらいの年かしら?
高校二年生なんだけど、最近はちょっとワイルドになってとってもかっこよくなったのよっ!」
そう言うホリィさんは誇らしげで息子さんのことを溺愛しているのが良く分かる。
きっとホリィさんの子供ならとても優しい男の子なのだろう。
目の前でキャッキャと話す彼女は少女のようでとても可愛らしい。

だが何かを思い出したようにハッとしたホリィさんは再び暗い表情になる。


「今はこの家にはいないんだけどね…。」

「え…?」
(それはどういう…)

「さあ!暗い話はここまでにしてお夕飯、頂いちゃいましょう!名前ちゃんにも手伝ってもらうわよっ!」

振り返ったときすでにホリィさんの顔は優しい笑顔に戻っており、それ以上話を聞くことはできなかった。