starry heavens | ナノ

承太郎さんは学校に行った。学生なので当たり前なのだが。
そう言えば自分の存在は元の世界ではどのようになっているのだろう。消えた後も何事もなく流れ続けているのであろうか?それはそれで悲しい。
まさか承太郎さんの通う学校に行くわけにもいかない私は、ホリィさんのお手伝いをする。

その時に私と未来の承太郎さんの関係性を根ほり葉ほり聞かれて、私のヒットポイントはほとんど削られていた。
「孫の顔が楽しみだわ。」そう言うホリィさんの言葉に私は顔を真っ赤にするのだった。


◇◇◇
昼も過ぎた頃、何故か承太郎さんは帰宅してきた。それも血だらけの男を肩に担いで。
男の名は花京院典明と言った。
何故か承太郎さんを殺すつもりで襲撃してきたスタンド使いらしい。

「駄目だな。手遅れじゃ。」
ジョセフさんの一言に私たちの言葉はつまる。

「承太郎、お前のせいではない。この男が何故『DIO』に忠誠を誓いお前を殺しに来たのか…。その理由がここにある!」
男の額に埋め込まれている蠢く何か。
それがこの人を操り、そして今死に至らしめようとしている。そうジョセフさんは言った。まるで生き物の様に男の額で蠢く虫のようなものに思わず顔を顰める。

「これは『DIO』の細胞からなる『肉の芽』。その少年の脳にまで達している。」

「しゅ、手術で取り出すことは、出来ないんですか…?」

「無理じゃ。この肉片は少年の精神に影響を与えるように脳の深くまで打ち込まれている。恐らく我々を殺害するようにと『DIO』は命令したのじゃ。どんな名医でもここまで脳に深く刺さったものを取り除くことは不可能じゃ。」

「そ、そんな…。」
『DIO』という男はなんて非道なことをするのだろう。こんな人の命を弄ぶようなこと、決して許されるはずがない。
もはや私たちにできることはないのか。誰もがそう思い口を噤んだとき、唯一動く男が一人いた。

「ちょいと待ちな。この花京院はまだ、死んじゃあいないぜ!」
そう言った承太郎はスタンドを出現させる。
そして自らの手で花京院が万が一にも動かないように固定し、スタンドでその『肉の芽』を掴んだ。

「ま…待ってくださいっ!少しでも脳を傷つけたら、その人は…!」
思わず止めに入ろうとした私だが、承太郎さんの鋭い視線を向けられてそれ以上近づくことはできなかった。

「今からコイツを引っこ抜いてやる。いいか、俺に触るなよ。俺のスタンドは一瞬のうちに弾丸をつかむ程正確な動きをする。」
スタープラチナがそれを掴んだ瞬間、肉の芽は自分の危機を察知したかのように触手を伸ばし承太郎さんの腕へと突き刺さる。
しかしそれでも承太郎さんは震え一つ起こしていない。刺さった場所から腕を通り、それは徐々に頭の方まで上ってくる。
異変に気が付いたのか花京院は突然パチっと目を開き、目の前の光景に目を見張る。

「き…さ、ま………」

「動くなよ、花京院。しくじればテメーの脳はおだぶつだ。」
その間も肉の芽は承太郎さんの腕を這いあがり、さらには首、そしてついに顔にまで達した。それでも承太郎さんとスタープラチナは震え一つ起こしていなかった。

「っ…!」
なんて強い精神力なのだろう。人とは自分の命が脅かされている状況で、ここまで冷静でいられるものなのだろうか?

「『波紋疾走』っ!!」
承太郎さんによって引き抜かれた肉の芽は、ジョセフさんが発した光のようなもので粉々に砕け散った。
それを確認した承太郎さんはスッと立ち上がり部屋を後にしようとする。

「…な、何故お前は自分の命の危険を冒してまで、わたしを助けた…?」
花京院の疑問に承太郎は一呼吸置いた後、後ろを向いたまま答える。

「さあな…。そこんとこだが俺にもよう分からん。」
そう言い残して承太郎は今度こそ部屋を後にした。



そうだ。
空条承太郎という人はこういう人間なのだ。
その口数の少なさから、ぶっきらぼうで冷たいという誤解を受けやすい。だが実際は大きく異なる。
操られていたとはいえ自分の命を狙ってきた人間を命がけで助けられる人間が、一体どのくらいいるだろう。

(承太郎さんは、承太郎さんのままなんだ。)
不良の容貌をしており、近寄り難い雰囲気があってもその本質にあるものは昔からかわらない。

ふと見た花京院さんの目には、うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。