07 太陽と月 暇だった。家の図書室にある本は既に一通り読み終え、私はすることもなく部屋をぐるぐると歩き回った。 7月の終わり。すなわち夏休みなのだ。 「うー…、お兄ちゃん早く帰ってこないかなぁ」 今日も今日とて秀吉様によばれたお兄ちゃんは、朝早くからこの暑苦しい外へ出掛けてしまった。 正直やる気もでない宿題は、夏休み一日目のお兄ちゃんのおかげで半分は終わっていた。が、残り半分もお兄ちゃんがいなきゃ終わる気がしない。 「暇だなぁ…鍛練しようにも道具ないし。暑いから却下」 どうも暑いのは苦手らしく、外出するという選択肢は私にはない。戦国の世では暑い時も寒い時も三成様を守るためにはそんなこと言ってられなかった。 しかし、この時代は平和すぎる。頻繁にお兄ちゃんに危機が迫るわけでも、大きな戦が起きるわけでもなく、毎日が淡々と過ぎていく。 「……眩しい」 太陽も昼になればよりいっそう眩しさを増してるような気がして、部屋は電気なんかいらないくらい明るかった。 私にはその明るさが嫌に思えた。 「カーテンカーテン…」 陽を遮るように閉めたカーテンが、外の風によってふわりと揺れた。 …そうだ、お昼食べよう。 △▽ ――プルル、プルル 電話の音で目が覚めた。どうやら寝ていたようだ。 「もし…もし…?」 『名前か?』 覚醒してない頭で電話に出れば、相手はお兄ちゃんだった。 「あぁ、お兄ちゃん。どうしたの?」 『いや、少し気になっただけだ』 「…なにが?」 『お前が、何をしているか』 お兄ちゃんが変態っぽい言い方で怖いです。 「変わったことはないよ?お昼食べて寝てただけだし…」 『そう…か。ならいい』 お兄ちゃんの後ろから半兵衛様の声が聞こえる。何を言ってるかまではわからないけど。 『名前』 「はい、なぁに?」 たっぷり間を開けてからお兄ちゃん。 『今日は外に出るな』 最初からそのつもりでした。 どういうわけかはわからないけれど、お兄ちゃんも外に出るなと言ってることだし。おとなしく家にいますよ。 そう返事をすれば、お兄ちゃんは満足したようで、夜には帰ると言って電話は切れた。 「…なんだったんだ?」 ツー、ツーという音だけが残る受話器を見つめて思わず呟いた。 △▽ 「…月だぁ」 見事な満月が窓から見えた。朝の眩しい太陽は、夜の美しい月に変わっていた。 「しかし…帰ってこないなぁ」 時刻は既に22時を過ぎた。お兄ちゃんはまだ帰ってこない。いい加減帰ってきてもいい時間なのに。 「事故、じゃないよね…?」 秀吉様のところに行ってるのだから、帰りは車で送ってくださるとは思うけれど。 「あと一時間して帰って来なかったら電話しよう」 外に出るなと言われたし、秀吉様の自宅までは距離がある。迎えに行くことはできない。 チク、タク、チク、タク… 時計の針の音がやけに大きく聞こえる。まるでカウントダウンを始めた爆弾みたいに。その音が私を余計不安にさせる。 チク、タク、チク、タク… 月が雲に隠れた。部屋の中がほんの少し暗くなった時、玄関から物音がした。 「お兄ちゃん…!」 お兄ちゃんが帰ってきたと反射的に玄関に走れば、目の前にいたのはマスクをした知らない男だった。 「…え」 「動くな!」 男は大きな鞄から包丁を取り出して私にむける。状況が判断出来ず動けない私に男は言う。 「金目の物を出せ、早く!」 「あぁ、強盗的な?」 早くしろ、と叫ぶ男が動かない私に苛立ったのか包丁を振り回しながら迫(せま)ってくる。 内心大きく溜め息をつく。せっかく三成様が帰ってきたと思ったのに。本当に最悪、だ。 「ったく、変な期待させんじゃねぇ…っよ!」 隙のありすぎる男の背後に飛び、回し蹴りを喰らわせてやった。一瞬でも三成様かと思った俺が馬鹿みてぇだろ。 「テメェ、金が欲しいなら働け…ってあら?」 治まらない怒りを男にぶつけようとしたが、男は壁にぶつかったまま気絶していた。 まさかあれだけで伸びてしまうなんて。現代人はやはり弱かった。 「あちゃー…。これ骨折れてない?やり過ぎたかも」 男の無事を確認したかったが、どうやら骨を折ってしまったようだ。蹴っただけなのに。 「どうしよう。警察連れていったほうが…」 「名前!」 いいか、と続けようとしたらお兄ちゃんが帰ってきた。 男と私をみて、お兄ちゃんは男に掴みかかった。 「貴様!名前に手を出すなど――」 「お、お兄ちゃん!その人もう気絶…して…」 「なに…?」 そう言って男を見たお兄ちゃんは気絶してる男を数回揺すぶってから床に叩き捨てた。 「となり町で殺人事件が起きた。まだ近くにいるから外に出るな、と言ったのだが…」 「あ、そうなんだ。だから昼間電話を…」 お兄ちゃんも、まさかこの家に来るとは思ってなかったのだろう。 私もこんなことになるなんて思ってもなかったよ。 △▽ 運が良いのか悪いのか。こうして男は無事捕まり、事件は一件落着、なんだけど…。 「名前」 「…はい」 あれから数週間お兄ちゃんは、片時も私から離れようとしなくなりました。 なんでも「私が家を留守にしてたばかりに名前を危険な目に」なんたらかんたら。 心配してくれるのは嬉しいんだけど…。家の中くらい自由させてよ、お兄ちゃん…。 ------------ 予定と180度ずれた話になってしまった。 相変わらずまとまりがない。 |