番外編:ある配達員の戸惑い



俺はシロネコ運輸のドライバーをしている。
4年制の大学を出たもののなかなか就職が決まらず、諦めかけていたところにこの会社から内定の通知が届いた。
正直希望していた職種ではないし、運送業は特に体育会系で仕事もキツい。
給料も初任給にしてはいい方だけど、ほとんど休みも取れないしもう辞めてしまいたい。
しばらくしたら他の部署に移動する事も可能らしいが、それを教えてくれた先輩は入社4年目。
つまり4年は出来ないって事か?
やっぱり辞めたい。
ここのところ毎日襲ってくる『仕事辞めたい衝動』と戦いながら、サンサンと照りつける太陽の下俺はトラックを走らせた。


***


「あ、次の配達先って……」
配達に行く時は事前に組まれた配送ルートに沿って順番に品物を届けていく。
そして配達前にトラックに積む荷物を確認するわけだが、その中にひとつ気になるものがあったのだ。
次の配達先はその気になる荷物の住所だ。
その荷物の品名は『男性用ニップレス』
やっぱり気になるだろコレ。

荷物の確認をした時の同僚との会話を思い出す。
「絶対おっさんだよ!たまに乳首浮き出てる奴いるじゃん」
「あー、あれはキモい。よく平気で外歩けるよな」
「なー。仕事終わったらどんな奴だったか教えてくれよな」
「分かった」
「まあスポーツする人も使うらしいんだけどな」

同僚はやけに詳しかった。

てゆうか発送元の会社も配慮が足りないよな。
こういう際どい商品の場合は品名偽るのが常識なんじゃないだろうか。


***


そんなどうでもいいような事を考えているうちに件の荷物の届け先に到着した。
玄関の前に立ち、チャイムを押してどんな人物が出てるか楽しみに待つ。

第一候補、やっぱりおっさん。
おっさんだったらおもしろいからな。
後で同僚に話して大笑い出来るのはこれだ。

第二候補、スポーツマン。
ムキムキな男が乳首にニップレスつけてるのも想像するとちょっと面白かった。

しかし予想しながら待っていても家主はなかなか出てこない。
インターホンもついているのに応答は無しだ。
留守なのか?だったら面倒だ。
そう思い少し大きな声で荷物を届けに来た事を告げてみる。
勧誘とか訪問販売だと思って出ないって場合もあるからな。

それでも家主は現れず焦れた俺は再びチャイムを鳴らす。
やっぱり留守なのか?
めんどくさいな、と不在伝票を準備しているとガチャ、とドアが開いた。
なんだ居るんじゃないか。だったら早く出てこいよな。
と思って出てきた人物は予想していたおっさんではなく、第二候補のスポーツマンでもない、年若い少年だった。
高校生か、もしかしたら中学生かもしれない。
この子がニップレスを……?
そこで俺は必ずしも本人が受け取るわけではない事に気付く。
きっとこの子のお父さんとかお兄さんとかだろう。
と、思ったがなんとなく少年の胸を見てしまったのはしょうがないよな。

ん??
なんかこの少年、乳首立ってないか?
胸の辺りに小さいぽっちがふたつ……これ乳首だよな?

思わずじっと見てしまったがすぐにハッとなって受領印をお願いする。
「あー…サインでいいですか?」
と少年が言ったので俺は自分の好奇心を満たす為にフルネームでサインさせた。
本当はフルネームである必要はないんだけどほんの出来心だ。
そしたら少年は真っ赤になって宛先に書かれているのと一字一句違わない名前を書いていった。
乳首を見ると完全に立っているみたいでさっきよりハッキリと浮き出てしまっている。

こんな若い男の子が顔を真っ赤にして乳首を立たせているというのはなんというか……。
そう、犯罪的なエロさを感じさせる。
なにか見てはいけないものを見てしまった気分だ。

俺が少年の乳首に釘付けになっていると、
「…あ、あの、っ荷物……」
と上擦った声で荷物を催促してきた。
そこでやっと正気に返って少年へと荷物を受け渡す。
渡す時にわざとダンボールの角で乳首を狙ってやったら声は出さなかったが体をピクッとさせて、相変わらず赤い顔で眉を寄せて随分と悩ましげな表情をした。
その表情に思わずドキッとしてしまったとしても俺は悪くないだろう。
言っておくが断じてホモではない。
ただ少年の顔には骨格に骨っぽい所がなく、決して女性的とは言えないがむさ苦しい男っぽさも感じさせない。
それでなんとも言えないいたたまれない気分になってしまうのだ。

この微妙な空気を断ち切るように足早に立ち去る。
玄関を閉める際、ちらっとしか見えなかったが俺の見間違いじゃなければあの子のちんこは勃起していた。
あれって乳首で感じて勃ったって事だよな。
お、俺未成年を勃起させてしまったのか……。
これは生々しすぎて同僚には話せそうにない。

それにしてもあの子、あんな敏感な乳首に生まれて若いのに色々大変なんだな……。
そう思うともう少し仕事を頑張れそうだな、と思った。


戻る

© 2013.08 紺野
This website is written only in Japanese.

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -