ハッピーバースデー、ディアマイダーリン



 


※大海birthday特別話
いろいろと気の早い未来の話です。
糖度高めでお送りします。







「紫サン! 僕今日で十八歳になりました! プレゼントください!」
「……何が欲しいんだ?」
「紫サンですっ」



 私は北条の鳩尾に、躊躇うことなく肘鉄を入れた。






ハッピーバースデー、
ディアマイダーリン



「ひ……久しぶりの紫サンの鳩尾パンチ……」
「今日は肘だ! いきなり何を言い出すんだお前は!」

 私は殊更に声を荒げた。顔が熱い。紅潮しているだろう顔は照れでなくて怒りの所為であってほしい。
 それでも懲りない北条は、私に詰め寄る勢いでまくし立ててくる。

「だって十八歳ですよ? もう法的に結婚できるんですよ僕! だから紫サンを僕にください!」
「……今日はまた一段とはっちゃけてるな北条……私を貰う許可を私に求めてどうする。
そもお前は何がしたいんだ、私と結婚する気でいるのか、それとも私の身体が目的か?」
「そんなの全部に決まってます!」



 半ばヤケクソの問いかけに、いともあっさりと北条は答えて――

 その意味が脳内に到達した時、私の思考回路は一瞬で焼き切れた。



「え……と、あの……北条……?」

 その間に、ニコニコ笑顔の北条が私を腕の中に閉じ込める。退路が断たれる。私の耳元で甘く囁くように北条は言った。



「僕はあなたが大好きなんですよ、紫サン。だから紫サンのすべてが欲しいんです。
心はもうもらったけど、身体と、法的な所有権はまだもらってませんから。だから……ね?」



「……ね? じゃなーい!」

 ――焼き切れた思考回路を必死に繋ぎ合わせた私は、北条の向こう脛を蹴飛ばした。






「北条。……今日は何月何日だ」
「四月四日は僕の誕生日です!」
「そうだな。そして今のお前の肩書きは?」
「新学期から高校三年生です……紫サンはいないけど、文芸部の副部長頑張ります……はあ」
「……高校も卒業しないうちからモラル崩壊な発言は慎め!」

 私は北条を叱りつけたが、北条は不満たらたらな顔で私を見てくる。……ああもう!
 私は北条に、ビッと人差し指を立てた右手を突きつけた。



「いいか北条。一年だ」
「……え?」
「一年経って、お前が高校を卒業して、その時にお前と私の気持ちが変わっていなければ――その時は私をお前にくれてやる」






 照れくさくて、早口で吐き捨てるように言ったけれど、ちゃんと北条には届いたらしい。

 ――戸惑い顔から、満面の笑顔へ。

 北条は私をぎゅっと抱きしめた。おかげで私は赤い顔を見られなくて済んだ。






「紫サン……本当に?」
「二度は言わん!」
「じゃあ言わなくていいから……左手、貸してください」

 私は首を傾げながら左の手のひらを差し出した。そっちじゃないです。北条は私の手の甲を上に向けると、薬指に銀色の環を嵌めた。
 やや幅広のフォルムに薄い水色の小さな石がひとつあるだけの、それはごくシンプルな指輪だった。――その、意味は。



「北条……これ……」
「約束の印と、僕の代わりの虫除けです。せっかく紫サンが決心してくれたのに、悪い虫が付いたらかなわないから」

 良いものじゃなくて申し訳ないですけど。照れくさそうに笑う北条と指輪を交互に見つめる。指輪は誂えたようにピッタリと、私の薬指に収まっていた。



「……バカ北条……私が貰うんじゃ、違うじゃないか……」
「違わないです。僕は来年の約束を貰いましたから」

 北条が、手にしたままだった私の左手にキスを落としながら言う。

「来年の誕生日、楽しみに待ってます」
「……期待しないで待ってろ」

 そして今度は、可愛くない返事をした私の口を塞ぐために。
 北条は優しいキスをした。






Happy birthday dear my darling. 



(でも一年かあ……長いなあ……)
(何が?)
(……紫サンを抱けるまで)
(お前はいちいち発言がリアル過ぎる!!)


 
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