出逢い、それが始まり



 


 小出高校、旧校舎。
 煉瓦造りの洋館風の建物は、聞くところによると築百年とも言われている。要するに年期が入っていて、壁を這う蔦がそれっぽさを助長している。
 ここに入るのは初めてだ。物珍しさにあたりをキョロキョロしながらも、目的地である三階に向かう。
 重厚な扉の前に立った。扉脇の壁に貼られた貼り紙を確認する。うん。聞いたとおりだ。
 扉のノブを回す。ぎぎい。見た目通りに古びた音を立てて扉が開く。その音に振り返った幾つかの人影に向けて、あたしは大きな声で言った。



「こんにちは! 一年C組吉野なの、入部希望ですっ」






   【出逢い、それが始まり】



 人影は三つ。
 セーラー服姿の女のひとが、三人。

(うわぁ……)

 あたしは目を見開いた。

 正面のひとは正に大和撫子!って感じの楚々とした美人さん。優しそうで、あったかくて穏やかな空気で包まれてて……見てるだけで癒される感じ。こういうひとを『癒し系』って言うのかな?
 右のひとは華奢で可愛らしい感じ。じっと見てたらクリッとした瞳に吸い込まれそうな目力美人さん。でも目を合わせると心の中まで見透かされそうなのは……なぜ?
 そしてもうひとり……黒のストレートロングがなんて似合う女性(ひと)なんだろう……それに凛とした空気! まさにクールビューティー! 素敵!
 みんな自分より大人っぽくて、制服姿が板に付いている気がする。多分先輩……なんだろうな。

 そこであたしは気付いた。三人の視線があたしの一身に注がれていることに。

(えーと……あたし? 見られてるのあたし? あたし見られてる! どうしてみんなあたしを見てるの? どうしようあたしどうすればいい? ああでも綺麗なひとたちに見られるのってなんだかそれはそれでいいかも知れないだって綺麗なお姉さんは好きですか? ええ好きですとも!?)

 内心プチパニック状態で挙動はフリーズしてしまったあたしを見て、長い髪のクールビューティーさんがクツクツと笑った。

「えらいイキのいいのが飛び込んで来たな」
「うん、ピチピチね」

 クリッとした瞳の目力美人さんが賛同し、それを癒し系大和撫子さんがやんわりたしなめる。

「二人とも、そんな言い方しないの。いくら活きが良くてピチピチでも、お魚さんじゃ
ないんだから」
「「は〜い」」

 肩をすくめる二人をよそに、今度はあたしに問いかけてくる大和撫子さん。

「ここ、何部か知ってる?」

 ああっ! 緊張感レベルアップ!!

「ぶっぶぶ文芸部ですかっ?」

 ……噛んでしまった。しかもなんか答え方間違った気がする。入部希望しといて疑問系で返したよあたし。
 だけど大和撫子さんは、そこには触れてくれなかった。オトナな対応ステキ!

「そう。文芸部。あなた、文芸部に入部希望で間違いない?」
「はっはい!」
「動機、聞いてもいい?」

 柔らかな声音で聞かれた質問に、今度は口が滑らかに動いた。
 だってこれに関しては、あたしの中で揺らぎはないから。

「あたし、本を読むのが大好きなんです! そして頭の中でいろいろ考えるのも。それを形にしたくて、高校に入ったら絶対文芸部に入部しようと思って……」
「素敵な夢ね」

 大和撫子さんは優しく賛同してくれた。それから他の二人と視線を交わし、にっこり笑顔で続ける。

「吉野なのさん。ようこそ、小出高校文芸部へ。私は部長の相澤かんなです。そしてこっちが」

 と、目力美人さんを指し示す。彼女は可愛らしい笑顔を浮かべた。

「二年E組、佐伯志乃です」
「私は二−Aの鷹月紫。よろしく」

 クールビューティーさんが後を継いだ。

「よ……よろしくお願いします……」

 あたしはいろんな意味でいっぱいいっぱいになりながらも、なんとかそう言って、ぺこりと頭を下げた。



 新しい環境、新しい出逢い。
 ここから、あたしのすべてが始まった――





【小出高校文芸部】




 
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