悪戯な風事件



 


 今日は朝から風が強かった。

 故にあちらこちらで女子生徒の悲鳴が巻き起こり、とんでもない幸運とその後の悲劇に遭った男子生徒がいたりとかいなかったりとか。






   case1:かんなの場合

「きゃっ」

 一陣の風にかんなのスカートがめくれた。両手がスカートを押さえる刹那、

 純白のレースが視界に入った。



「……んもう。今日風強過ぎ!」

 子どもっぽく風に悪態をつく幼なじみの、到底子どもっぽいとは言えない、先程僅かに垣間見えた――下着。



「こう兄……見た?」

 振り返ったかんなには、いつも通り安心できる『こう兄』の笑顔をくれてやる。

「何が? すごい風だったから、ひょっとしてスカートがめくれでもしたのか?」
「う……ううん何でもない!」

 慌てて取り繕うかんなの背後で、浩輝は薄く微笑んだ。
 ほら今も、自分は下着なんて見てないとあっさり信じてしまう。
 自分を信じて疑わないかんなは、実に無垢で可愛い存在だ。
 





   case2:志乃の場合

「……きゃ!」

 小さな悲鳴に何事かと振り返れば。
 いきなり吹いた強い風に、ちょうど志乃のスカートが舞い上がったところだった。
 慌ててスカートを押さえた志乃と椎名の目が合った。顔を赤らめた志乃が小声で詰問する。

「せ……先生……見ましたね!?」
「……声出すから振り返ったんじゃない。何事もなくて良かったけど」
「風にスカートめくられた挙げ句、中を見られたのは何事もないうちに入るんですか!?」

 そう言われて椎名は首を傾げた。
 スカートの中身? そう言えば下着まで見えたかも知れない。それくらいの強い風だったけれど。



「怪我もしてないし、別に何事もないんじゃないの?」



 椎名の返答に、志乃はガックリと肩を落とした。

「……先生に乙女の恥じらいを理解してもらえると思って言ったアタシが間違ってました……」






   case3:なのの場合

「きゃーっ!」

 盛大な悲鳴に、聖は思わず『発声源』を見やって――それから明後日の方角を見た。
 それでも今の一瞬は、瞼にしっかりと焼き付いてしまったが。

 下から風が吹いたのかと思うくらい見事に、めくれ上がったなののスカートと、バッチリ見えてしまった――下着。

 真っ赤になったなのが、聖の方にギギギと振り返る。

「しししし下野君! 見た!?」
「みみみ見てないっ」
「嘘! じゃあなんでどもるのよっ」
「見てないっ! ピンクのチェックとか知らない俺は!」

 言ってから聖はハッとした。しまったこれは――



「見ましたって言ってるようなもんじゃん!」
「そりゃあんな派手な悲鳴上げたら、見てくださいって言ってるようなもんだろ!」
「ひどい! あたしそんなつもりじゃ……」



 逃げ出すなのを聖が追いかける。
 いつもと逆の追いかけっこは、だが、そう時間を経ずに終了した。






   case4:紫の場合

 バサッと。強い風が紫のスカートをめくりあげる。
 突然の風にもさして慌てる様子もなくスカートを抑えつけた紫は、その向こうに見慣れた長身を見かけて眉をそびやかした。

「……敢えて聞いてやろう。どうしてそんなに残念そうな顔をしている?」
「だって紫サン……」

 北条は至極残念そうな顔をしたまま、至極残念そうな声で言った。



「……どうしてスパッツ履いてるんですか!」
「アクティブに動くには必須だろう」
「せっかくのチャンスだったのに! てかもっと恥じらってください!」
「断る。それから」

 スタスタと北条の元に歩み寄った紫は、容赦のない一撃を彼の鳩尾にくれてやった。

「人のスカートの中を見ておいて謝罪のひとつもないのかお前は!」
「……ごめんなさい」

 北条は素直に謝った。






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