遠距離恋愛、近距離恋愛。









「あと十年経てば何ら問題ないのに、何で今の十歳差はこんなに大きいんだろう……。」





手の平を陽に翳して、遠い空の遥か向こうを見詰める。そこにあるのは彼の人の姿であった。

生徒と教師。
同じ立場になることすら到底出来なくて、なんてあまりにも遠い──。





アタシが部屋の窓で呆けていると、横からクッと一声の笑いが聞こえて来た。
そこには文芸部の必要書類に目を通す、生徒会長こと宮本浩輝が座っている。
そして彼は文芸部部長であるかんなちゃんの幼馴染みでもあった。

「……椎名相手じゃ大変そうだな。」
「……椎名先生だからってだけじゃないんです。十歳も違ったら向こうに取ったらアタシなんかは子ども過ぎて対象外で……遠いなって。」

事実を口にしてみて、改めてその距離の縮まらなさを思い知らさせられた。

生徒会長はふっと口元を緩めると書類をアタシに差し出した。
今日は部長のかんなちゃんの代行で必要書類に印鑑を生徒会室まで貰いに赴いていた。


 
「ありがとうございます……。」
 
少しだけ遠慮がちにアタシはその書類を受け取る。本来であればかんなちゃんとのやり取りを偶然とは言え、貰ってしまったことが実に申し訳ない。

しかしたまにこのような場面に出会した時にかんなちゃんには内緒で椎名先生の話を生徒会長に聴いてもらっていたりした。
切っ掛けはなんだっただろう。些細な独り言を拾われたのが初めだっただろうか。
戸惑いながら話をしてみると、意外にも男性側の貴重な返答を貰えたのを覚えている。





「……距離はある意味操作出来るのにな。」
「年齢とか立場とか……物理的な面で遠過ぎる気がします。アタシから行かなければ先生は別に気にも止めないんじゃないかな……。」

窓が大きく開放された部屋に大きな風が舞い込んで来る。
カーテンと共に二人の髪の毛も大きく舞い上がった。

「……一方的だけとは思えない……けどな、佐伯の場合。」
「えっ?」

風で拾えなかった言葉をアタシは髪を押さえながらもう一度問う。しかし生徒会長は意味深にアタシから目を反らすと、次の書類に目を通し始めた。





気持ちの面と年齢、立場に差の有り過ぎる一方通行の遠距離恋愛。
流石にこれを自分自身でどうにか出来るレベルではなかった。





そして一方、アタシとは相反する位置にいる生徒会長及びかんなちゃん。
アタシは二人について軽く生徒会長に触れてみた。





「生徒会長はアタシとは反対にかんなちゃんと近い位置にいますよね。」
「なんで俺たちの話になる。」

問いかけに生徒会長の書類を仕分ける手が止まる。それから考える姿勢へと入った。

「……近くていいなとも思うけれど、今の関係に変化が伴うのはやっぱり覚悟は必要だろうな。」
「覚悟ですか……。」
「これまで兄妹のような特別な関係で来たんだ。また別の新しい特別な関係にはかんなの気持ちもタイミングも考えなければいけない。」





そして生徒会長はそのまま独り言のように静かに呟いた。

「……セーブに自信を無くす時があるよ。昔のように『好き』だなんて言われたら、嫌でも反応してしまう……。」

その横顔がほんの僅かに淋しそうに見えるのはアタシの気のせいだろうか。
生徒会長はアタシを見ることなく、黙々と仕分けの作業へと戻る。





物理的にも心理的にも近過ぎる距離。
生徒会長とかんなちゃんはそんな中で今の特別な関係を保っている。
その中には気持ちの決壊を塞き止める思いがあるのだろう。
アタシとは違う関係で、知り得ることは出来ないけれど。





「遠くても近くても難しいんだな。」

アタシは書類を抱えて廊下の窓から先程と同じ遠い空を見上げる。





遠距離恋愛、
近距離恋愛。


(簡単な恋なんてありませんでした。)
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