小出高校の男子高校生の日常8 |
移動教室の帰り道。 先に教室に帰っていたはずのサッカー部お馬鹿コンビが、渡り廊下の物陰に隠れてゴソゴソしているのに気がついた。 「何をやっているんだ、アイツらは……」 僕の横を歩いていた下野が呟く。皆目見当もつかないらしいが、小声で言い交わす二人に僕はピンときた。 「水色!」 「ピンク!」 「……僕は白」 「そりゃまた正統派だな……ってうわっ!」 僕の声に一様に飛び上がった二人──中上と松嶋は、僕の顔を認めて二人同時に安堵の息を吐いた。 「……なんだ北条か、ビックリさせんなよな……」 「ビックリするようなやましいことしてるからでしょ」 「さっぱりわからんのだが」 こちらは困惑の表情の下野。ここは一部には有名なスポットなんだけど……やっぱり知らないんだな。 ──途端にムクムクと湧き上がる悪戯心。 僕は下野に見えないように、小さく口角を吊り上げた。 「下野は何色だと思う?」 「だから何が?」 「良いから答えて」 「……好きな色を答えれば良いのか?」 「それで良いから」 「なら……紺?」 首を傾げた下野が言い終わったところで、シッ、中上が沈黙を求めてきた。 遠くから、人の声。……どうやら『来た』らしい。 渡り廊下を歩いてきたのは女の子。両手は移動教室用の荷物でふさがっている。そこに都合よく吹いてくる、一陣の風。 「きゃっ!」 小さな悲鳴とともに舞い上がるスカート。そして── 「「……紺か……」」 小さくハモる、残念そうな中上と松嶋の声。 「お前らと言う奴は……」 対してこちらは真っ赤になった下野の声。予想通りの反応に、僕はまばらな拍手を贈った。 「わーすごーい下野。正解オメデトー」 「は、は、破廉恥な……!」 「しっかりバッチリ見ておいて、人のこと言えないででしょ」 「み……見てないっ!」 「その顔は見てるだろ〜」 「ああ、見てる顔だ」 「見てないっ」 「下野ムッツリ〜」 「いや〜ね〜奥様。あちらのお方、ムッツリなんですって〜」 「んま〜! やらし〜」 「やらしくないし、ムッツリでもない!」 「下野……そんな顔で言っても説得力ないよ?」 真っ赤な顔の下野をひとしきり弄んだところで、松嶋がまた声をひそめるように言った。即座に「黄色!」やら「今度こそピンク!」やら言い交わしているところを見ると、中上と松嶋は常習犯らしい。 ぶっちゃけ僕はどうでも良いのだけど、相手の足音が近づいて来るのが思った以上に早くて、下野共々逃げ損ねた。 そして──現れたのは、 風が吹く。スカートが舞い上がる。チラリと見える太ももと、それから── ……眼福。 無言でスカートを押さえつけた女子生徒は、 ──紫サンだった。 「おま……北条! 見えなかったじゃないか!」 「折角のチャンスだったのに!」 もちろん、紫サンを認識した瞬間に、中上と松嶋の目は塞いでいる。下野が他所を向いているのも確認済みだ。でも、 ──その所為で、自分が完全に隠れることができなかった。 そして、馬鹿二人が騒いだ所為で、こちらを振り向いた紫サンと僕の目が合ってしまった。普段なら最高に嬉しい瞬間、だけど今は言い訳のできない状況な訳で。 ゴゴゴゴゴ、怒りのオーラが立ち上る音が聞こえた気がした。 「ほ〜う〜じょ〜う〜?」 「イヤコレは不可抗力と言いますか」 だって、ねえ。 彼氏としては、大好きな彼女のスカートが翻る瞬間を、他の野郎に見せるわけにはいかないじゃない。 だから逃げる訳にもいかなかったし…… ……なーんて言い訳は、怒った彼女には通じない訳で。 「問答無用! そこになおれ、成敗してくれるわ!」 猛然とダッシュしてくる紫サンを見て、僕らは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。 小出高校の 男子高校生の 日常 (でも今回も、紫サンのスカートの中身はスパッツだったな……残念。) |