もしも彼女がイメチェンしたら−かんなの場合− |
ツインテールがゆらゆら、揺れる。その髪の長さも質感も、そして色も、それはすべて自分のものではない。それにものすごく違和感を感じる。きっと、『本当に』髪を染めたりストレートにしたりしたら、最初はこんな違和感が付きまとうのだろう。 出くわした教師がギョッとした顔でわたしを見た。それはそうだろう。わたしはかぶっていたウィッグをずらして、校則違反ではないことを示す。なんだか余計ギョッとしていたけど……あ。……まあいいか。 毛先のゆらゆらに少し慣れてきた頃──そしてわたしが予想していたのとちょうど同じ頃、目の前に探していた顔が現れた。 「こう兄!」 声をかけると、振り返るこう兄のいつもの顔が、呆れたように変化した。 「お前な……生活指導のヤツに見つかったら、何言われるかわからんぞ」 「あら大丈夫よ。『演劇部のアリカちゃん』の名前を出せばすべてまかり通るから」 「……やっぱり有森か。アイツは本当にトラブルの種を撒き散らすのが大好きだな……」 ため息を吐くこう兄の側に、わたしは一歩、近づいた。もう。 「ちょっとはびっくりしたりしないの?」 「そりゃ多少は驚くが……そうもあからさまな人工色の髪色なら、ウィッグだってことはすぐにわかると思わないか?」 質問に質問で返されて、わたしは面白くない。まあこれはこれで予想の範疇内ではあるんだけれど、やっぱり面白くないものは面白くない訳で。 「似合わない、かなあ?」 「そうだな。ここまで奇抜なものは似合わない。だがストレートヘアは悪くは無いと思うし、髪色も少し明るくするくらいなら似合うと思う」 もちろん高校を卒業してからだがな、と、生徒会長らしいオマケの一言も忘れない。 このウィッグを選んだのは単に奇抜だったからで、最初から自分に似合っているとは思っていなかった。それはこう兄も同じだったみたいだけど、こう兄は否定するだけでなくちゃんとフォローも入れてくれる。そういうところがとても嬉しい。 「だがそんなものをかぶって校内を練り歩くのは止めてくれ。有森じゃないんだから……」 こう兄が手を伸ばす。そして揺れるツインテールの片一方を、掴んで自分の方に引いた。 ウィッグは何の抵抗もなく、するりとわたしの頭から滑った。そして── ──次の瞬間のこう兄の顔を見て、わたしは至極、満足したのだった。 もしも彼女がイメチェンしたら (ドッキリ大成功!) (……それで狼狽えない方が、どうかしていると思うぞ……。まさかウィッグの下にハゲのカツラを仕込んでいたとはな……) (うふふ。こう兄をびっくりさせるなら、このくらいやらなくちゃね) (……ばかんなの癖に……生意気) (いったーい! 髪の毛引っ張らないでよ!) (ああすまん。これは地毛だったか) (もう! こう兄の意地悪!) |