本当は◯◯なCoideko童話−美女と野獣変−B






次の日、かんなが目を覚まして階段を下りて行くと、とても香ばしい香りがキッチンからして来ます。

「……これは……フレンチトースト?。」

甘いバターが丁度いい頃合いで焼きついた香りです。
かんなは自分の好物など浩輝に伝えた覚えはいないのにどうして彼が知っているのでしょう。
フレンチトーストと言ってもかんなが大好きなのは母親である紫がいつも作ってくれるフワフワのフレンチトーストなのです。このフレンチトーストは他のフレンチトーストとは違う香りがするのです。
それなのにお母様が作るフレンチトーストと同じ香りがしてくれるではありませんか!

「浩輝、さん……、どうしてそのフレンチトーストを……。」
「さん付けは要らぬと昨日も言っただろう。これから夫婦となるのだから、俺の事も呼び捨てで構わな……。」

浩輝がかんなの方へ振り返った瞬間でした。浩輝は目を疑います。
そして直ぐにかんなから視線を逸らすと。
ガシャン!手元の食器をシンクへと滑り落としてしまいました。

「まあ、大丈夫?」

かんなは慌てて浩輝の下へ駆け寄ります。
浩輝は何の躊躇いも無く自分に駆け寄るかんなと共にその姿に狼狽しておりました。
何故なら、かんなのその姿はまだ寝起き間もないネグリジェ姿だったのですから!

肩から腕へと白磁のような肌が続き、またそんな肌を白いシルクのネグリジェが包み込みます。

窓から入る弱い朝陽を浴びた彼女の姿はまるでシルクのネグリジェの中を泳ぐようで、体のラインは今にも的確に透けて彼女を浮き出しそうで、正視する事が出来ませんでした。
それは何処までも艶やかで。
そして健やかで純粋なものでした。

「あの……浩輝、さん……?」

遠慮がちに覗き込むかんなは自分に向けられた視線の意味には気が付きませんでした。

「いや、何でもない。大丈夫だから、席に着いていてくれないか。後は皿を並べるだけだから」

浩輝はそう言うと、視線を逸らしたままかんなを背にしてキッチンへと戻って行ったのでした。
毛むくじゃらの顔のお陰でかんなには悟られていない事に安心しています。
こんなに顔に熱が集中していることを……。
ただでさえ怖がられる存在だと言うのに、更に嫌悪を抱かれたく無かったのです。
最初は誰か傍にいてくるたらと言う思いで交わしたかんなの父親である大海との交渉が、今はかんなである事に嬉しさと愛しさを感じざるを得ない、この感覚を何と呼べば良いのでしょうか。

「いただきます」

無邪気にフレンチトーストを頬張るかんなを見詰めながら、浩輝の繊細な鼓動は変化して行ったのです。



日常 かんな 志乃 なの 紫1 
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