本当は◯◯なCoideko童話 -美女と野獣変@-



 


 ──それは、彼と彼の間で交わされた『契約』でした。



「──元の姿に戻りたい?」
「当たり前のことを聞くな!」
「じゃあ、これから言うことをよく聞いて。大丈夫、言う通りにしていたらちゃあんと元の姿に戻れるし、それ以上の『イイコト』が待ってるからさ──」





本当は◯◯なCoideko童話
-美女と野獣変-




「……と言う訳で、君たち。誰かお嫁に行ってくれないかい?」



 脈絡ナシの前振りナシ。あまりにもあっさり宣った父親に、──母親の鳩尾パンチが炸裂しました。



「ゆ……紫サン痛い……」
「何が『と言う訳』だ! 娘と引き換えにバラを貰ってきただぁ!? そんな花なら私は受け取らないぞ!」
「でももう頂いてきたんですもん。手折った花は枯れるだけ、バラに罪は無いでしょう? 愛でてやってくださいね」
「それとこれとは話が別だ!」



 開き直る父親に噛み付く母親。そんないつも通りと言えばいつも通りの二人を見ながら、三人の娘たちは揃って大きなため息を吐きました。

「軽ッ! どーして父さんはあんなに軽いワケ?」
「そりゃ……ね」
「だってお父さまですもの」
「そりゃ、とか、だって、とか、言ってる場合じゃなーい!」

 ダンッ! 娘の一人がテーブルを叩きます。

「仮にも娘を嫁に出すなんて言ってるのに! しかも……あのお屋敷に住んでるのって、野獣だって話じゃない!」



 そう。父親がバラを貰ってきた相手は、街外れにある立派だけれど古びたお屋敷、……そこに住む野獣だったのです。
 娘たちだって野獣の噂は聞き及んでいます。黒くて大きな、醜い獣のような姿をした化け物だと、皆口々にそう言うのです。
でも──



「そのバラはね、野獣の屋敷の中でしか咲かない特別なバラなんですって。それをどうしても紫サンにプレゼントしたくって……だってほら、せっかく紫サンと夫婦になれたのに」
「意味がわからない! もう良い、私が野獣に掛け合ってくるモガッ」
「はいはーい。紫サンは余計なことしない」

 母親の口を手で塞いだ父親は、その耳元に小さく囁きます。

「……これはすべてが丸く収まるための第一歩に過ぎないんですから」
「え?」

 怪訝な顔をした母親の隙を見逃さず、父親は母親を姫抱きに抱き上げました。うわっ、ジタバタと暴れる母親は意に介さず、娘たちに告げます。

「じゃあ娘たち。誰が行くかは任せるよ。ただ……人選を間違えないようにね。くれぐれも」



 そうして父親は、暴れる母親を抱えたまま、悠然とその場を後にしたのでした──






「もうなんなの! 父さんの母さんへのラブっぷりは!? あたしもあんな風に愛されたい!」
「なのちゃん……起こるポイントがズレてるよ」
「そうね志乃ちゃん。誰かがお嫁に行かなきゃいけないんだもの」

 両親が去った部屋の中。残された娘たちは考え込みました。
 こんなにいきなり、意に沿わない形で結婚話が出てくるだなんて、誰が想像できたでしょう。しかも相手は野獣です。行きたくなんてありません。

「なのはイヤよ! なのは運命の王子様と結婚するって心に決めてるんだから!」
「お父さんには悪いけど、アタシも結婚なんてする気ないもん。お母さんに変なことしないように見張ってなきゃいけないし」

 口々に言う姉妹たちを見て、心優しい娘・かんなはまたため息を吐きました。
 大切で大事な彼女たちに無理強いをすることは、彼女はどうしてもできなかったのです。

(お父さまのため、お母さまのため。……みんなのため……)



「わかったわ。わたしが、行きます」


 
日常 かんな 志乃 なの 紫1 
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