本当は◯◯なCoideko童話 ー白雪姫変ー A



 


さて、ここは森の中。
すっかり困ってしまっているのは、白雪志乃姫……ではなく、城に出入りする猟師・椎名でした。
彼はお供の小柄な茶トラ猫に、独り言のように語りかけました。

「……どうしようか、野良」

ニャーン。賢しい猫ははっきりとした声で応じます。

「そうだね……新しい王妃も酷いよね。彼女をどうにかしてくれだなんて……」

ニャー。しかし猟師椎名は愛猫の答えに異なった解釈を続けます。

「俺が困るんだってば……『どうにか』ってどうすればいいの……?」

……ウニャ。きっと野良が人間ならば、目を点にしたことでしょう。

「もう考えるのも面倒くさいよ……」



言いながら猟師椎名はズンズンと森の中に分け入ってしまいます。それを呆れながらも軽快な足取りで追う野良とは対照的に、必死で追いかける少女が一人。



「まっ……待って、くだ……さいっ」



彼女こそ、この物語の主人公・白雪志乃姫でした──






「まずいぞ……椎名が逃亡した」
「予定では、もう少し小人の家に近いところまで誘導してもらうはずだったんですけどね……」
「仕方ないわ。すぐにフォローに入りましょう」
「だからどうして俺を見るんですか相澤先輩!」
「それはね……」
「かんなセンパイ、紫センパイ。なの、いっきまーす!」
「言うまでもなく、暴走するであろうなのちゃんを抑えるためよ」
「……あンのクルクルパーめ!」
「下野ー、頑張ってねー」
「…………。」
「こう兄、どうかしたの?」
「いや……(かんな……見事なまでに吉野の行動を見切っているな……)」






さて、再び森の中。

猟師とはぐれてしまった白雪志乃姫は、途方にくれておりました。

「困ったなあ……一体どっちに行ったらいいんだろ……」

独り言に返事を返してくれる相手は誰もいません。白雪志乃姫は大きなため息を吐きました。

その時です。

ガサガサと、茂みをかき分けるような音が聞こえてきました。
最初こそ、猟師が戻って来たと思い喜んだ白雪志乃姫でしたが、あまりにも派手な音に少し怖くなってきました。

(怖い獣とかだったらどうしよう──!)

ガサガサ、ガサッ。やがて目の前の藪がかき分けられ、そこから何かが現れました。
息を飲む白雪志乃姫の前に立ちふさがり、頭やら体やらに刺さった枝葉や何やらを払っているのは、

「……猟師、さん?」

白雪志乃姫は大きな目を見開きました。そこにいるのは確かにさっき見失った猟師と全く同じいでたちをした誰か、しかしその風貌は全く異なります。
驚く白雪志乃姫の目の前に跪き、猟師は満面の笑顔で言いました。

「そこな可愛らしいお嬢さん。あたしとお茶でもしませんか?」
「……え?」

白雪志乃姫の小さく華奢な手を取って、猟師?は続けます。

「そうしましょうさあ行きましょうめくるめく夢の世界へレッツゴ……」



どげしっ



……なんだか派手な音がして、猟師が倒れます。倒れた猟師の、その後ろに立っていたのは──



「全く……狼の分際で猟師に化けていたいけな少女を誑かそうとするとは……言語道断だな」



……やっぱり猟師でした。

「さあ帰るぞクルクルパー!」
「やん、ひーくんってば妬かないでよ」
「誰が妬くか! ああ、お嬢さん。この道をまっすぐまっすぐ進むと、小さな小屋がある。今宵はそちらで休まれるといいだろう」
「あの……あなたは一緒に行ってはくれないのですか?」
「ああ、俺にはこのクルクルパーに折檻する義務がある。従ってお嬢さんのようぼうは飲めない……さあ行くぞ!」
「ああっギブ! 締まる締まる締まる──



あまりといえばあまりな展開に、白雪志乃姫が目を丸くしている間に。
猟師と猟師は、藪の中へと消えて行ったのでした──


 

 
日常 かんな 志乃 なの 紫1 
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