もしも彼女がイメチェンしたら-プロローグ-



 


 ドンッ、と良い音を立てて、なのが誰かにぶつかった。バラバラ、何かがぶちまけられる音。いったあ〜、呻く声。

「あー……。すまんかったわあ、前が見えんくって……って」
「アリカ。大丈夫か?」

 紫がアリカの上に載っていたダンボール箱を押しのけ、手を差し伸べて立たせてやった。その間に志乃とかんなが転がった箱をひとまとめにする。それなりに大きな箱が、合わせて三つ。

「全く。こんな大きな箱を重ねて運んでいたら、誰かにぶつかるのは当然じゃないか?」
「軽いからいける思うたんや」
「まったく……ぶつかったんがなのっちだからまだ良かったけど」
「ひっどーい! 紫センパイ、あたしだってか弱い女の子なんですよ?」

 そういうなのは既に何事もなかったかのように立ち上がっている。

「……仕方ないな。かんなちゃん、志乃ちゃん、私はアリカを手伝ってくるから、みんなは先に部室に行っててくれ」
「あら。わたしたちも手伝うわよ?」
「うん。アタシ持つからさ、一箱貸して」
「志乃センパイに持たせる位ならあたしが持ちますっ!」
「そっか。じゃよろしくね、なのちゃん」
「はいっ! ……あれっ?」



 結局その大量の荷物を、アリカと紫、なのが分担して一箱ずつ持ち、その前後をかんなと志乃が誘導する形で、一行は無事に演劇部の部室にたどり着いたのだった。






「……で、アリカちゃん。箱の中身はなんなの?」
「びっくりしました! 箱は大きいのに、ものすごい軽いんですもん」
「気になる?」

 好奇心で頷く志乃となのに、ニマッと笑ったアリカは自分が手にした箱のふたを開けてみせる。
 ──そして二人も、後ろから覗き込んだかんなと紫も、揃って沈黙した。



「……ヅラ?」
「ヅラやない、ウィッグや」
「どこかのマンガで見たようなネタね……」
「この箱ぜーんぶ、ウィッグや。長さも色もイロイロあるでー」
「どうしたの、こんなにたくさん……」
「要らんからってツレに貰うたんや」
「アリカのツレ……コスプレ仲間か……」

 納得した紫がダンボール箱からウィッグをひとつ、取り出した。黒髪ストレートロングのそれをスポッとなのの頭に被せる。

「ほーらなのっち。お揃いだぞー」
「……ゆ……紫センパイとお揃いですとな!?」

 嬉々として壁の全身鏡の前に立ち、自分をまじまじと見るなの。正面から、横から、斜めから。そしてくるりとターンを決めて、アリカに向かって言い放つ。



「アリカセンパイちょっとヅラ借ります!」
「ヅラやない、ウィッグや」

 アリカが訂正するいとまも与えることなく。
 なのの姿は演劇部の部室から消えていた。



「なのっち〜。廊下は走るなよ〜」
「今まさに絶賛廊下爆走中でしょ」

 開け放たれた扉に向かってどうでも良さそうに言う紫に、志乃が苦笑混じりにそう返す。
 他の箱を物色していたアリカが、ツインテールを揺らして顔を上げた。

「みんなも好きなヅラ……やのうてウィッグ貸したるで。イメチェンや、イメチェン。それで彼氏らがどんな反応するか、見てみたらどないや?」






もしも彼女がイメチェンしたら



(──さあ、どうなるんやろうな?)


 
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