小出高校の男子高校生の雨の日の景色 |
今日も朝から雨だった。 窓から外を眺めながら、中上が彼のキャラに似合わないため息を漏らしている。 サッカー馬鹿の彼のこと、きっと部活ができないのを憂えているのだろう。ちなみにこの場合の『馬鹿』とは褒め言葉だ。 だから俺は明るく声をかけた。 「どうしたんだ、中上。ため息なんかついて」 「ああ……下野か。今日も雨だよな、って思ってさ……」 そしてまたため息をひとつ。 「こうも続くと、さすがにうんざりするな」 「ああもううんざりだ! 雨なんか見たくもない! なんだこの異様なまでの相合い傘率の高さは!?」 ……………………は? 目を点にした俺に構わず、中上は声高らかに言い募る。 「朝から晩まで雨なんだから、自分が持ってきた傘に各々入ってりゃいいだろうが! なんでわざわざ小さいひとつの傘に、ぎゅうぎゅうくっつきあって入るんだ!?」 ……コイツはサッカー馬鹿の前にただの馬鹿だった。 変な導火線に点火してしまった、そう思ったが時すでに遅し。中上は拳を握り締め力説する。 「濡れるし、狭いし、良いことなんて何もないだろうが!」 「濡れるからくっついても大丈夫って口実が貰えるんじゃん。これほどおいしい言い訳はないでしょ?」 横から口を差し挟んできたのは北条だった。後ろにはうんうん頷く松嶋もいる。 なんだかまた変な論争に発展しそうな気がする、そう思い逃げようとした俺を、後ろから北条が捕まえた。 「離せ北条!」 「なのにそのチャンスを不意にした人が居るらしいね下野君?」 「誰が!?」 「『ひーくんが傘貸してくれたのー、超優しーあたし惚れ直しちゃったー』って吉野が広言してたよ?」 ……やっぱりあの時吉野を見捨てれば良かった。俺は本気でそう思った。 北条の言葉に、すかさず松嶋が食いついてくる。 「お前……そんなもったいないことをしてたのか!?」 「相合い傘は男のロマンだぞ!?」 ……お前今良いことなんて何もないって言ってなかったか中上……? 「なあ、彼女の傘に入れてもらうのと、彼女を自分の傘に入れてあげるのと、どっちがいい?」 「「入れてもらうの」」 松嶋の質問に、間髪入れずに中上と北条が答えた。 「だってちっちゃいじゃないか!より寄り添えるんだぞ大々的に!」 つまり今まで散々言っていた文句はすべてやっかみか。 「だよね。僕の傘大きいから余計にそう思う」 北条……お前はどこまでもリアルだな。 「俺は自分の傘に入れてあげたい派」 「なんで?」 「だって『入れてくれ』って言うより『入れてあげる』って言う方が好感度高くない?」 い……意外と策士なんだな松嶋。問題はその策を振るえる相手がいないことだが。 「そりゃそうだけどさ……」 「でもって、彼女の家のが遠ければ最高。家まで送っていってあげるか、無理ならそのまま傘を貸してあげて、『明日返してね』って明日の約束を取り付ける、とか」 「だけどさ、それ別に彼女の傘を借りて、『明日返すね』って約束しても同じ気がするよ?」 「……へ?」 「むしろ『傘のお礼に』って何かプレゼントするなり、デートに誘うなりした方が、長い目で見たらいい気がするんだけど」 「……あう……」 さすがに彼女持ち北条の言うことには説得力がある。呻く松嶋。北条の、その気の回しっぷりが難攻不落と言われた鷹月先輩をオトした秘訣なんだな。 「そうかもね、下野」 「な……どうして俺の思考を!?」 「途中から心の声が漏れてたよ」 ニヤニヤ笑う北条と、中上と松嶋。頭に血が上るのがわかった。……不覚。 「だからね下野。傘はただ渡せばいいってもんじゃないんだよ?」 「余計なお世話だ!」 小出高校の 男子高校生の 雨の日の景色 (よーし! 帰りは誰かの傘に入れてもらうことにする!) (誰の?) (誰かのだ!) (……中上、松嶋、悪いこと言わないから本命作りなよ) |