椎名的方法論 -4- |
「……どういう、ことですか」 かけられた声に、我に返った。見下ろすと、ごく間近から見上げてくる大きな瞳。その声はいつもより冷たくて、椎名は少し焦った。 口下手な自分は、何と答えればいいか、わからない。だけど。だから。 「これ……」 手のひらにあるものを、そっと差し出した。志乃の怪訝そうな顔は、それを目にして驚愕へと変化する。 「ど……どうしたんですか、これ? だってアタシ……アタシのは、確かに……」 ガサゴソとポケットを漁る彼女、そして取り出した手帳の間には、確かに彼女の七つ葉のクローバー。 「これ……紫サンの。志乃が七つ葉を見つけたって話をしたら、彼女も昔、見つけたって……今日、持ってきてくれた」 差し出した栞を、志乃はおずおずと受け取った。まじまじと眺めて、それから椎名に返そうと差し出す。だが椎名は首を横に振った。 「後ろ……見てみて」 言われるままに志乃は栞をひっくり返す。──そして、見つけた。 「……何だろ……だい、す……き……?」 椎名と同じように声に出して読んでから、彼と栞を交互に見比べる志乃を見て椎名は微笑んだ。 「俺もそう読めた」 「ひょっとして……先生は、これを読んでたんですか?」 頷く椎名。それを見て、早とちりをしたことに気づいた志乃の顔が一瞬で朱に染まった。 俯く彼女を、そっと抱きしめる。 「……妬いてくれたの?」 「や……妬いてません!」 「だって紫サンも、『私に妬かなくても大丈夫だ』って言ってたし」 「紫ちゃんには妬いてません! 先生が紫ちゃんを独り占めしてたから怒ってるんです!」 「……嘘」 「嘘じゃないんです! ……そりゃちょっと紫ちゃんが羨ましかったりもしましたけど……でも」 口を尖らせて反論する彼女が可愛くて、椎名は抱きしめる腕に力を込めた。 ──そして、当初紫に苛立ちを覚えていたことなど、綺麗さっぱり忘れてしまったのである。 後日。 「でね、紫ちゃんがね……」 「聞いて下さいよ。今日、紫サンが……」 志乃と大海、大好きな二人の、変わらない毎日の言葉に、椎名は苛立ちを思い出して。 (そう言えば、紫サンに好きになって貰うのを忘れてた……) 再び同じ轍を辿ることになるのだが── ──それはまた、別の話。 【オマケ】 「さあ紫サン。洗いざらい吐いてもらいましょうか。何がどうなって、椎名先生があなたを『大好き』だって言ったのか」 「吐くって言ったって……椎名と私の間に恋情が発生する余地は欠片もないぞ、解ってるだろう?」 「解っていますよ。でも先生があなたのことを『大好き』って言ったのは事実でしょう?」 「……私が持ってきた栞の裏に、書いてあった文字を読んだだけだ。あとで見てみればいい……どうした?」 「……誰に」 「え?」 「誰に『大好き』って書いたんですか……?」 「お前なあ……栞をあげたのは母さんだよ、小学校の時だから!」 「そう……ですか」 「わかってくれたか? じゃあいい加減にこの腕を離してくれ」 「嫌です。今日はもう離しませんから」 「北条!」 「僕を妬かせた罰です」 「理不尽だ!」 この後紫が離してもらえたかどうかは──ご想像にお任せします♪ |