Escape B |
「吉野?」 慌てた様子でひーくんがあたしに駆け寄って来た 「吉野っ!!」 「ひーくん…」 「どこか痛いのか?それとも具合悪いとか…、まさか誰かに何かされたのか?」 「ちょっとひーくん落ち着いて?どーしたの?」 「どーしたの?は俺が聞きたい。なんで泣いているんだ?」 泣いているあたしを本当に心配してくれてるひーくん でも泣いている理由なんて言えない… 「はーい、下野くんちょっといい?」 「え?ああ、渡瀬か。居たのか」 「ちょっと〜、私が居るのも気づかない位、なのの事しか見えてなかったのかしら?」 「違う!いや、…吉野が泣いてたからだ」 「まあいいわ。ちょっとなのと話したいからそこで待っててくれない?」 つぐみちゃんに手を繋がれたまま引かれ、ひーくんから少し距離を取った つぐみちゃんはあたしの頬っぺたを優しくペシペシしながら諭すように話し出した 「泣いてた理由は大体察しがつくから何も聞かないけれど。なの、今日は恋する女の子が頑張る日でしょ?そんな顔してたら、駄目じゃない。その大事に持ってる紙袋、大好きな彼にちゃーんと渡さなくちゃね。私、応援してるからさ」 そう言っていつものようにニッコリ笑ってくれた 昔からあたしに頑張る力をくれるつぐみちゃん 「ありがとうつぐみちゃん。あたし頑張る!大好きだよ、つぐみちゃん」 「私もなのが大好きよ。じゃあ、お邪魔虫な私は退散するわね」 「本当にありがとう、つぐみちゃん」 あたしから離れ、屋上の出口に向かうつぐみちゃん その途中でひーくんに何か言ってたみたいだけど、あたしには聞き取れなかった 「ねえ、下野くん?これ以上なのの事を泣かすようなら正拳突きくらいじゃ済まないからね」 「……」 つぐみちゃんはもう一度振り返って、あたしに手を振って帰って行った つぐみちゃんが居なくなり、屋上にはあたしとひーくんの2人きりになった ひーくんの顔を見てあたしは勇気を出して叫んだ 「ひーくん、バレンタインのチョコ受け取って下さい」 「吉野からのチョコが欲しいんだ」 同時だった 「え?」 「は?」 ……… 暫し沈黙 ……… 「ひーくん、何か言った?あたし、大声出したから聞こえなかった」 「な、な、何も言ってない!断じて言っていない」 「?」 狼狽えてるひーくんを不思議に思いながら、あたしはひーくんにチョコを差し出した 「貰って下さい」 「ああ、ありがとう」 「うん。それと…」 「なんだ?」 「お誕生日おめでとう、ひーくん。これは誕生日プレゼント♪」 「は!?」 「え?だって今日、ひーくん誕生日でしょう?」 「なんで吉野が知ってるんだ!誰にも言ってないはずだ」 「愛の力で知りました」 「愛の力って……お前…」 あは。ひーくん、顔が真っ赤だ あたしがニヤニヤしてると、デコピンされた 「ニヤつくな!気持ち悪い」 「いったーい!もう、痛いよ。涙出ちゃう」 「…悪かった。だから泣くな。つかちょっと聞きたいんだが、渡瀬は空手か何かしてるのか?」 「つぐみちゃん?うん、小さい頃から悠お兄ちゃんと一緒にしてるよー!つぐみちゃん、超強くてカッコいいんだから。そこら辺の男子より強いと思うよ?」 「へ、へえ〜…」 「それが何か?」「いや、何でもない」 お昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴った 「あっ、お昼休み終わっちゃったね。教室に戻ろっか、ひーくん」 「…」 「ひーくん?予鈴もなっちゃったよ?五時間目始まるよ?」 生真面目なひーくんがこの場から動こうとしない…なぜ? 「おい、今日は何の日だ?」 「ひーくんの誕生日♪」 「そうだ。だから、今日は俺のわがままを聞け」 「わがまま?」 「このまま屋上で俺と一緒に居ろ。いいな?」 「うん」 ああ、なんてカッコいいんだろう こんなカッコいい命令されて断れるはずないじゃん! 今日に限ってズルいよ 「なあ、お前のチョコ食べていいか?」 「うん。手作りだから美味しいかは保証出来ないけど」 チョコの箱を開け、笑顔になるひーくん 「スゲェ、気合い入ってるな」 「当たり前じゃん。ひーくんへのチョコなんだから、全力で作ったよ」 「ありがとうな。頂きます」 チョコを掴み、口に入れるひーくん 「吉野が作ったチョコ、最高に上手いな」 あたしのチョコを食べて、満面の笑みを浮かべてるひーくん 普段なら絶対に見せないキラキラした笑顔 あたしのトキメキ全てを持っていかれた Escape 大好きな彼と笑顔を独り占め出来た、特別な時間 |