Escape A − なのside −






今日は待ちに待ったバレンタインデー(はあと)
ひーくんに恋する乙女なあたしは、ひーくんにあげるチョコを一ヶ月前から考えて準備をしていた



そしてあたしが掴んだ極秘情報(翠お姉ちゃんより入手)によると、バレンタインデーはひーくんの誕生日なんだって!

もうこれはあたし、女子力・乙女力全開で頑張るしかないじゃない(はあと×2)



あたしを普段以上に見張ってくるお兄ちゃん達の目を盗んで、ひーくんにあげるチョコを作った
そして、誕生日プレゼントも用意した

あとはどのタイミングで渡すかを悩んでいた



きっと今日は、女の子からのチョコ攻撃で忙しいだろうし
カッコいいから(はあと×100)モテモテだもんなぁ、ひーくん



どうしよっかなーと考えてると、朝からバッタリひーくんと出会った
超ラッキー♪


「あっ♪おはよう、ひーくん」
「ひーくんと呼ぶな。いい加減覚えろ」



超ラッキー♪と思ったのも束の間
予想はしていたものの両手で沢山のチョコを抱えているひーくんを見て、あたしのテンションは一気に落ちた

ひーくんが何か言っていたけど、あたしは素っ気ない返事しか出来なかった

あたし以外のチョコを受け取らないで!
受け取らないで欲しい!



そんな言葉が口から出そうになるのを精一杯飲み込んだ
彼女でもないあたしはそんな事言えない、…まだ



休み時間毎にひーくんに会いに行くのが日課なんだけど、今日は行く気力がなかった

女の子からチョコを受け取ってるひーくんを見たくなかった

あたし、なんて醜い子…




「…なの?なの?どうした?」
「え?あ、つぐみちゃん」
「朝から変よ?まあ、いつも変だけど。今日は見ていて痛々しい位なんだけど。お昼休みだしちょっと教室出ようか?」
「…うん」



あたしはつぐみちゃんと屋上に行く事にした
一応、ひーくんに渡すチョコと誕生日プレゼントを持って…

屋上に行く途中でA組の前を通ると、ひーくんが丁度女の子からチョコを受け取ってるのが見えてしまった


あたしは今の光景を忘れるべく、つぐみちゃんの手を引き足早に屋上へと向かった





「うわー、意外と人がいないのね、屋上って。貸切りじゃない?」
「…うん」
「天気もいいし、気持ちいいね」
「…うん」
「今日はバレンタインだね」
「…うん」
「今度ケーキバイキング奢ってくれる?」
「…うん」
「今、大事に持ってる紙袋頂戴?」
「…うん……え?あっ…これは駄目」
「なの、ずっとうわの空じゃない」
「…ごめん、つぐみちゃん」



あたしは今にも溢れそうな涙を堪える為に空を見上げた

つぐみちゃんは何も言わずにあたしの手をそっと繋いでくれた
小さい頃からあたしが泣きそうな時は必ず手を繋いでくれた
あたしはいつもそれで安心出来た


一筋の涙が零れ落ちたその瞬間に、予想外の人が現れた




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