彼女のシュシュは語る









はあ、今日は朝から正門で愛しいダーリン(ハート)にも逢えたし(誰が!ダーリンだっ!by下野)、お弁当には大好きなハンバーグも入っていたし、苦手なリーダーも当てられることもなかったし、なんて、し・あ・わ・せ!

これから大好きなセンパイたちのいる部室で沢山の愛を頂いちゃうところで〜す。





なんてスキップをして旧校舎に向かっていた、ら!
そよそよと目の前から嗅ぎ覚えのある大好きな香りが!

あれ、この香りって何だっけ。
何時、何処で、誰から嗅いだんだったんだっけ。
思い出せ〜、思い出せ〜、あたしの脳。

石鹸のような爽やかな香りに誘われるがままにあたしは軽やかに旧校舎の3階まで上がった。

くんくん。ふんふん。
まだ匂いはここから先に続いてる。しかも文芸部の部室側から。

でも待って。センパイたちから発せられる香りとはまた別物だ。

くんくん。ふんふん。
奏お兄ちゃんの妹を甘く見ないでよ〜。

あたしは3階の階段の壁に背中を貼り付けて、文芸部の部室の方に恐る恐る顔を覗かせてみた。
するとそこには文芸部の部室に入っていく人物のポニーテールと紺のドットシュシュを確かにこの目で確認をした。





あっ、あっ、あっ!
あれは、あの人の香りだった!
バガバカなの!何で忘れたりしたの!
あの人の大好きな石鹸の香り!

しかも今日はポニーテールにシュシュをしてたな。
確かシュシュの日はデートだったような……。

キラーン!










【その頃の文芸部】

「あれ?百佳、どうしたの?」

部室を訪ねて来たのは志乃と同じクラス且つなのと同じ部活の先輩である倉持百佳だった。

「若干、鬼迫を感じるのは間違ってないかしら。百佳ちゃん?」
「……ええ、その通りです。」
「今日は下野じゃなくて、倉持さんなんだね。」
「男子は先にロードワークに行っちゃってさ……。他に連れて来れるのって私しかもういないじゃない?」
「……で、ここで生け捕りにするに気満々なんだ?」

志乃の言葉にいつもはぽんぽんと可愛く揺れている百佳のポニーテールも今日はゆらゆらと重々しく上下に揺れる。

部室では三人が同時に口角を秘かにつり上げた。








「吉野なの、無事に到着であります!しかも今日は素敵なサプライズ〜。百佳センパイまでなののこと、待っててくれたなんて!」

扉を放てば、こちらを振り返る弓道着を着たあの人が。
スローモーションのようにポニーテールが動いてゆく。

ああ、百佳センパイ(この辺から音声化)「、良い香り〜!」

あたしは今日も格好良く袴を着こなす百佳センパイに後ろから抱き着いた。
石鹸の爽やかな香りを存分に吸い上げる。

くんくん。ふんふん。くんかくんか。

ああ、しあわせ。
今日はしあわせ。
大好きなセンパイ三人にもう一人大好きなセンパイが大好きな空間にいる。

もうもう、(この辺から音声化)「あたし、今日はついてるぅ!」
「そうね。ついてるわね、強運か悪運か。それは部室にて訊きましょうか、吉野ちゃん。」

百佳センパイの棒読みのような声がしてあたしはセンパイを見上げる。
そこには筋を立てた百佳センパイが目を光らせていた。





「……れ?怒ってます?」

おかしいな。いつも後ろから抱き着いてもそのまま引き摺って行ってくれるのに。
すると志乃センパイの声が百佳センパイの背後から聞こえてきた。

「なのちゃーん、今日は何の日?」
「え、今日はぁ、百佳センパイと〜。キャッ。女子の部会の……って、ぁあああっ!」

目を光らせる百佳センパイを見上げて、ぞくりと背中を走る汗を感じながらあたしは叫んだ。
百佳センパイはそのままにっこり微笑んで、下掛けをしたままの手であたしの襟を掴み上げる。

この人、握力確か40近くあったような……。

「吉野ちゃん、ご名答。正解したからには私と一緒に来てもらいましょうか。」

百佳センパイの顔は笑ってるけどオーラは笑ってない!あたしの中で危険信号が点滅してるー!
そんなときでも百佳センパイからは石鹸の良い香りがするー!

ああ、憎めないいけずなお人。

「なのっち、分かったから全部口から駄々漏れさせるのはやめとけ。」
「そうね、取り敢えず百佳ちゃんの匂いを嗅ぐのはそろそろ止めないと。」
「じゃあ、百佳よろしく。なのちゃん、行ってらっしゃい。」
「うん。明日お返しする。バイバイ。」
「バイバーイ。」





ズルズルズル。あたしは今、百佳センパイに引き摺られている。
でも違うの、違うの。いつもと違うの。
後ろから抱き着いた状態じゃなくて、まるで逃がさないような力の強さで引っ張られている。決してあたしの力じゃない。

嫌な予感がする。
百佳センパイはいつもは優しくてしっかり者で後輩たちの一目も置かれているけれど、サバサバしているからな人当たりが良い。





「……百佳センパ〜イ、あたしこれからどうなるんですか?」
「どうして欲しい?」

ズキューン!
そのキラキラ光る笑顔とこれから起こるであろう未知の恐怖にあたしは撃ち抜かれた。

ああ、ああ、ああ……。
百佳センパイ、今日はデートの日だから怒るの止めましょうよ。

「ちょ、ちょっと。な、なんで吉野ちゃんが知って……!」

ああ、やっぱりデートなんですね。

「ち、違うよ。」

ああ、百佳センパイ、顔が真っ赤ですよぅ。

「……倍にしようか。」

百佳センパイの小さな返しにあたしは完全に凍てついて、そこからの記憶は残っていない。

ただ、残像に残るのはぽんぽんと跳ねるシュシュをした百佳センパイのポニーテール。





彼女のシュシュは語る

(へえ、百佳って関くんとデートのときシュシュしてきてたんだ?)
(それどこ情報!?)
(え、なのちゃん。)
(……いつか倍返し。)
(もしもし、百佳さん?)
日常 かんな 志乃 なの 紫1 
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