ジングルベルまでもう少し 下






クリスマス当日
朝から吉野とすったもんだの結果、結局今日も蒼さんのケーキ屋を手伝っている



改めて店名を読んでみる「petite cerise nano(プチ スリ−ズナノ)」
店名に妹の名前を付けるとか…
どんだけ吉野が好きなんだ

昨日、一日店に居て色々分かった事がある
3人のお兄さんは異常な程、吉野を溺愛している事
だから吉野が好意を抱いている俺に対しての敵対心がハンパなく強い事
響さんは実のお兄さんではなく、蒼さんの同級生で付き合いが長いから吉野とも仲がいい事
沢城さんも高校からの付き合いだそうだ



「んー、なの。今日も可愛いなぁ。蒼お兄ちゃんがずっと独り占めしちゃいたい」
「蒼ちゃん、なの姫に抱きつくの無しだよ。んじゃ、俺も♪今日は奏だけのサンタさんになってねー♪」
「2人とも朝からバカな事を言わないで下さい。なの、バカが移るからこっちに来なよ」
「皆さん朝からなのちゃんを困らせないで下さい」



…みんな吉野が好きだよな


「もうみんな止めてよ!あたしに触っていいのはひーくんだけなんだから」


おいっ!今、なに言った?コイツ…


沢城さんと鷹月センパイは爆笑しているし
吉野のお兄さん達は泣き崩れているし
響さんはその泣き崩れているお兄さん達をフォローしている



「ひーくん、開店準備しに行こう」
「おい、さっきの発言みんなの前で訂正しろ」
「しない。しないもん」


俺の気持ちは無視か!
ったく、いつもそうだ。自分の気持ちだけ押しつけて…
でもなぜか憎めないのは…なんでだろうな



店内で仕事をしていると、まさかの人の来店で気分が更に滅入った
見られたくない奴に見られてしまった
でもあのサッカーコンビでなくてよかったが


「まさか北条くんが来るとは思わなかったねー」
「でもお前、鷹月センパイの事バラしたな」
「うっ…どうしよう…ケンカしちゃうかな?」
「するかもしれないな。でもあの2人なら大丈夫じゃないか」
「うん、そだね。結局ラブラブだしね〜」



そして今日も忙しなく過ぎてあっという間に閉店時間となった

そして今、俺はなぜかトナカイの格好のままリムジンに乗っていた




サンタの格好をした吉野と共に…


「なあ、吉野…。この車はどこに向かってるんだろうな?」
「知らなーい」
「じゃあなんだ、俺達は拉致されたのか?」
「うーん、分からないけど、運転手さんは知ってる人だから大丈夫だよ」
「知り合いなのか?」
「うん。あっくんと翠お姉ちゃんの運転手さん」
「…そうか」


そうこうしてる間にリムジンが止まった


「さあ着きました。なの様。聖様」
「はい、ありがとうございます」
「どこだ、ここ…。公園?」



この運転手が言うには、頑張った吉野に対しての2人からのクリスマスプレゼントだそうだ


「うわぁ〜、綺麗な夜景」
「海が見えるな」
「静かだね〜」
「ああ」


お互い海を見ながら心地よい沈黙を味わっていた


「そうだ!さっき翠お姉ちゃんからの手紙にこの場所で鐘が聞こえた2人には永遠の愛が約束されるって書いてあったんだ」
「鐘?」
「うん。この近くにある教会でクリスマスに鳴る特別な鐘なんだって!でも聞こえないよね?」
「…聞こえないな」


というか、聞こえたら俺達は永遠の愛が約束されてしまうだろうが!
こいつは俺が自分をどう思ってると考えた事があるんだろうか?


「…聞こえたらいいのにな」


そうポツリと呟いた吉野がとても可愛らしかった
こいつはいつもは変なクルクルパーのくせに、急に可愛くなる時があって非常に困る


目と目が合い、お互い見つめ合ったまま沈黙が続く
心臓が煩いくらい鳴っている



「あー、サンタさんとトナカイさんがいるー!」
「こらっ、邪魔しちゃダメよ」


小さな子供が俺達を指差して喜んでいるので、我に返った


「そっか、あたし達店にいたまんまの格好だったね。じゃあトナカイさんはサンタを捕まえてみて?」
「あっ、おい!待て、走るな」



俺ははしゃぐ吉野を追いかけながら、もしかしたら来年のクリスマスは違った関係になっているのかも知れない…と感じていた




ジングルベルまでもう少し



吉野は気づいていなかったみたいだが、俺には微かに鐘の音が聞こえていた




吉野には絶対言わないけどな





fin

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