ジングルベルまでもう少し 中







「うわっ!なんで下野聖がいんの〜?」
「…まさかだと思いますが、手伝うとかじゃありませんよね?」


程なくして、吉野の2人のお兄さんも店に現れ一気に騒がしくなった


「さすが悠お兄ちゃん、正解。ひーくんね、今日と明日手伝ってくれるの♪ひーくんとイブもクリスマスも一緒にいれるんだ〜」
「なのがイブもクリスマスも一緒に過ごすのは俺じゃん。彼はいらなくない?」
「そうだよ、なの。僕らがいるからいいでしょ?」
「やだ!ひーくんと一緒に頑張るの」
「奏お兄ちゃんと頑張ろう!」
「い・や」
「なの、彼は接客出来るの?足手まといになるならいらないよ?」
「ひーくんは何でも出来る王子様なんだから」


吉野のとこのお兄さん達は妹に対する愛情が度を越していると感じる



「奏さんも悠さんも今は彼のお力を貸して頂きましょう。今日と明日は外売りもありますし、みんなで力を合わせて頑張りましょう」
「っていうか、さっきから気になってたけど下野聖の格好何!?似合い過ぎ〜」
「僕も思ってましたが…似合っ…て…ククク」
「ひーくんは何着ても似合うでしょう?超カッコいいー♪」



そう…俺は今…人生最大の後悔をしていた
再び現れたこの店のお兄さんが「今日と明日、この格好でなら働く許可を出す」と衣装を投げつけてった…


そう、それはトナカイの着ぐるみだった
本気で帰ろうとした所を吉野と響さんに説得され結局トナカイの格好をして働く事になったのだ



「おはよー」
「おはようございます」


裏から二人の女性が現れ、更に騒がしくなった


「紫センパイのサンタコス超可愛いです」
「丈が短すぎる…」
「センパイの美脚が見れてなの幸せ〜」


紫センパイ!?
なぜ鷹月センパイがここにいるんだ…


「なのちゃんは鷹月さんの事が大好きなのね」
「はい♪紫センパイはあたしのヒーローなので!でも夏恋さんも大好きです」
「私も大好きよー」


吉野がもう一人の女性と話ている隙に、俺は見つからないようにこっそり背を向けた


「で、下野は素敵な格好をしているな。良く似合っているぞ」


……速攻でバレた


「俺だって好きでトナカイの格好をしている訳ではありません」
「ほー、でもなのっちの為にしているのだろ。ようやく素直になったか」
「誰の為とかはありません。強いて言えば社会勉強です。それよりここでその格好で働いている事を北条は知っているんですか?」
「……言って……」

鷹月センパイの応えを遮り、パンパンと渇いた音がしてみんなその人に注目した


「今日はクリスマスイブよ!みんなで力を合わせて【petite cerise nano】のケーキを売りまくりましょう」
「はーい」皆が声を合わせて準備に取りかかった



沢城さんと鷹月センパイと悠さんは駅前の特設販売所に出かけた

店の前では響さんと奏さんが声を掛けて売り子をしている
…さっきから女性客率がハンパなく高いのは二人のルックスのせいだろう


俺は吉野と店内で予約されたお客様にケーキを渡す仕事をしていた
正直、外売りでなくて良かった…
トナカイの格好をして売るのは自分的にかなり痛い


「いらっしゃいませ〜」

吉野の明るい声が店内に響く
確かにコイツの性格からして接客業に向いているのだろう


「ほら、ひーくんもご挨拶して?」
「あ、ああ。いらっしゃいませ」
「まあ、可愛らしいサンタさんとカッコいいトナカイさんね。ふふ、本当にお似合いだわ」


中年の女性客に誉められて喜ぶ吉野を諫めて、ケーキを渡した


「ありがとうございました」
「ありがとうございました〜♪」
「私、この店のケーキ大好きなのよ。だからこんな素敵な二人からケーキを受け取れて幸せだわ。またね、お二人さん」


笑顔で帰って行く客を見るのは気分がいい


「お似合いだって、私達♪うふうふうふふ」
「気持ち悪い笑い方をするな」


その後も客が途絶える事がなく、仕事を続けた



「ねえ、響ちゃーん」
「何でしょうか?」
「わざとでしょ〜?あの二人を店内に二人きりにさせてるの」
「さあどうでしょう?ただ、私はなのちゃんの味方です」
「俺の味方になってよ〜。あー、なのが超可愛い笑顔で笑ってるよ!下野聖め」
「ここにあるケーキを売ったら店内に入れますから、頑張りましょう」
「売り切ったらなのとイチャイチャしていいって事か…。奏、本気で頑張っちゃおー」



なんか外が騒がしいと思ったら、奏さん目当ての女性客が長蛇の列をなしていた


イブという事もあり、夜まで忙しく店内とキッチンを慌ただしく行き来し、一日は終わった



「お疲れ様でした。下野さんも良かったら食べて行って下さい」
「蒼お兄ちゃんのケーキは世界一美味しいから食べて行って?ひーくん」
「じゃあお言葉に甘えて頂きます」


吉野が絶賛するだけあって、確かにこの店のケーキは美味しかった


「じゃ、帰ろうっか、ひーくん」
「ああ」


俺が席から立ち上がると、吉野が奏さんに抱きかかえられてあっという間に連れて行かれた…
その後に悠さんも続き出て行った

遠くの方から微かに「ダーリン、また明日ね〜」と聞こえた

俺がボーゼンとしていると響さんが俺に向かって呟いた


「あれが吉野家なんですよ」
「はあ…」
「明日も宜しくお願いしますね。頼りにしてます、下野さん」
「なのー、蒼お兄ちゃんと帰ろ…って、いなーい!響!なのをどこにやった?」
「なのちゃんは奏さんと悠さんと一緒に帰りましたよ」
「あ、い、つ、ら〜!俺のなのを〜。今すぐ帰る」
「はいはい、社長はまだ帰れませんよ。仕事が山ほど残ってますから」
「俺のなのがあいつらに喰われてしまうじゃないか!?」
「はいはいはい。それは困りましたね」
「困ってるから帰るんだ!帰せー!」


蒼さんは響さんに引きずられ強制的にキッチンへと連れて行かれた


吉野家って一体…
明日はここに来るのを辞めようと固く心に誓った



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