ジングルベルまでもう少し 上






商店街を歩いていると、クリスマスソングがあちらこちらから聞こえて来た

そうか、もうすぐ世間はクリスマスなのか


クリスマスと言っても今まで無縁でいた
家業はパン屋だがクリスマスだからといって忙しい訳ではなかったし、何より父親がミーハーなイベントが嫌いだったからだ

小さい頃は母親がパーティーをしてくれていたが、今はもう俺も弟も喜ぶ年では無くなった為、自然としなくなっていた



クリスマスか…
俺はショッピングウィンドウに目を向けると、優しいピンク色のニット帽が目に入った
吉野に似合いそうだな…


って、ちょっと待て自分!
何でアイツが出てくる
そうだ、今のは無かった事にしよう
そうしよう


そう言えばクリスマスが近いのに何も言って来ないな…アイツ…
こんなイベント事を逃すヤツじゃないのに…
いやいやいや、だから自分!おかしいだろ!
吉野が何も言ってこなくても関係ないはずだろ!


頭を左右に振り、親に頼まれた用事を済ます為に足を進めると、視線の先に見慣れた顔をした人が店の入口で客を見送っているのが見えた
…ケーキ屋でバイトしてるのか?吉野のヤツ

いつも以上の笑顔を男性客に見せている
そしてサンタのコスプレ衣装がまたよく似合っていた
それにしてもスカートの丈、短すぎないか?


店の中から出てきた長身の店員が吉野に何か言っている
そして吉野は頬を染め喜んでいる

…見たくない

気分が良くなくなり、足早に通り過ぎた
自分でも分からない位、なぜか苛立っていた




終業式が終わり帰宅する為に廊下を歩いていると吉野が近づいて来た


「ひーくん。これ、あたしからのクリスマスプレゼント〜♪」
「いらん」
「そんなキッパリ断るとか…」


ちょっと素っ気な過ぎたかと思えば「やーん♪キッパリ断るひーくんも超カッコいいー」とかバカな事を言ってる吉野を無視して、下駄箱へと向かった


「本当に無視しないでよ〜。受け取るだけ受け取って?好みに合わなかったら使わなくてもいいから…ハァハァ…」


走って俺を追って来たのか、吉野は息を切らしている
とりあえず俺は受け取る事に決めた


「…プレゼント受け取ってやる」
「ありがとう。本当はイブやクリスマスにひーくんとデートして渡したかったんだけど、無理だから先に渡すね」
「だからひーくんと呼ぶな。何回言えばいいんだ」
「えへへ、ごめんね。じゃあ、あたし行くね」
「待て。…イブもクリスマスも忙しいのか?」
「え?」


…聞いてどうする?
自分でも分からなかったが、口に出してしまった


「うん、イブもクリスマスも蒼お兄ちゃんのお店手伝うから無理なんだ〜」
「店?」
「うん、蒼お兄ちゃんはケーキ屋さんなの。だから忙しくって」


この間、働いていた店はお兄さんのだったのか


「そうだ!ひーくんも手伝ってくれないかな?」
「は?」
「そうしたらイブもクリスマスも一緒に過ごせるじゃん。我ながらナイスアイデア!」
「だからなんでそうなるんだ!」
「決定〜♪一緒に頑張ろうね、ひーくん」
「勝手に決めるなー!」


結局俺は、吉野に押し切られ店を手伝う事となった…





「で、なの。なんで下野聖を連れて来たんだ?」
「蒼お兄ちゃん、ひーくんが今日と明日、手伝ってくれるって♪」
「貴様の力など必要ないわ!」
「社長!今は猫の手も借りたい位、忙しいんですよ!人の手が借りれるんですよ!ご厚意を有難くお受けしましょう」


…この人は吉野が頬を染めて話ていた相手


「だよね〜、響お兄ちゃんの言う通り!蒼お兄ちゃん、ひーくんにお礼言ってよ!」
「はあ?なぜ俺が敵にお礼を言わなきゃならんのだ」
「本当に子供みたいな事を言って、貴方は。少しは大人になって下さい」


…敵ってなんだ?
響…お兄ちゃん?この人も吉野のお兄さんなのか?いや、でもお兄さんは3人のはず…


「うっさいわ、響!俺は忙しいんだ、キッチンに戻る。朝からご苦労だったな下野聖。気をつけて帰ってくれたまえ〜」
「また社長はそんな事言って。下野さん、社長に変わりお詫び致します。今日と明日は多忙を極める為どうかお力を貸して頂けませんか?」


吉野のお兄さんとは違い丁寧な物腰の方だ


「…別に構いませんよ」
「きゃあ♪ひーくん、ありがとう〜」
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します」


2人にお礼を言われて気分は悪くなかった
これも社会勉強だと思い頑張る事に決めた



でもそれはすぐに後悔する事となった…



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