目には目を、歯には歯を、嫉妬には嫉妬を



 


「ふ……ふふふ……」



 悪辣な笑い声を立てる私に、廊下を歩いていた生徒が思わず怯えたように後ずさった。



「まさか、まーさーか、この紫様がやられっぱなしで終わるなんて思ってないだろうな?」



 先日の誕生日には、皆の策にまんまと嵌って素敵なサプライズを頂いてしまった。
 これは是非ともお礼をしなければなるまい。ふふふふふ。



「さーて、どうお礼をしてやろうかな?」






目には目を、
歯には歯を、



 脳内でプランを練りながら廊下を歩いていたら、少し先の渡り廊下でかんなちゃんと宮本先輩が話をしているのを見つけた。
 すぐにプランのひとつを選び出す。そして私は脳内でそれをなぞりながら、かんなちゃんの背後から二人に近づいた。
 私に気づいた宮本先輩が声を上げかけるのを動作で制して――






「だーれ、だ?」
「あ、紫ちゃん……んっ?」



 驚いたかんなちゃんが身をよじったので、彼女の目を覆っていた私の手はそのまま下へと滑り落ちた。……そして豊かな膨らみに引っかかって止まる。



「……鷹月。吉野みたいな真似をするな」
「一緒にしないでくださいよ、宮本先輩。見てたでしょう? 手が滑っただけじゃないですか」
「だったらすぐに手を退けろ。公共の場所だぞ、ここは」
「はーい」

 素直に手を離したけれど、宮本先輩の眉間に皺は寄ったまま。うん。やっぱり宮本先輩は宮本先輩だ。これでも十分、だけどせっかくだから駄目押しをしておこうかな。



「でもかんなちゃん……また胸大きくなった?」
「ゆ、紫ちゃん!?」

 何てこと言うの! 真っ赤になるかんなちゃんと、眉間の皺三割増の宮本先輩。
 立ち去ろうと踵を返して歩き出す、その視界の端に、宮本先輩がかんなちゃんの手を引っ張って生徒会室の方に連れ去るのが映った。

 ――かんなちゃん、頑張れ。

 私は心の中でそっとエールを送った。






・・・・・・・・・・






「志乃ちゃーん。ちょっと椎名に用事があるんだけど、一緒に行かない?」
「え? うん、いいよー」



 私は志乃ちゃんを伴って椎名ラボへと向かった。
 椎名は昼休みに現れた志乃ちゃん(と、私)に少し驚いたようだった。読みかけの本を閉じてから、私たちの方に向き直る。

「どうしたの? 紫サンまで」
「用件があるのは私です。ちょっと聞きたいことがあって……」

 私は用意してきた用件を簡潔に済ませた。そして、敢えて極上の笑顔で言う。



「ありがとうございました。……じゃ志乃ちゃん、帰ろっか」
「へ?」
「……え?」

 椎名の眉間に僅かだがはっきりと皺が寄る。

「私これから部誌のチェックしようと思ってたんだ。この際だからつき合ってよ」

 部活を盾に志乃ちゃんの腕を引っ張ると、椎名の眉間の皺が深まった。



「……待って紫サン」
「何ですか?」
「し……佐伯は置いてって」
「ヤですよ。今から部活だって言ったでしょう?」
「今はお昼休みじゃない」
「別に休憩時間を何に充てても問題ないでしょう?」

 言って私は殊更に志乃ちゃんの腕に抱きついて見せた。椎名の眉間の皺が増えて、そして――



「――じゃあ、俺の為に充てても問題ない訳だ」



 志乃ちゃんの腕を掴んで自分の胸に抱き込んで。
 そうして椎名は私をラボから閉め出した。






・・・・・・・・・・






「さーて。残りは一人か……」



 かんなちゃんも志乃ちゃんも、十二分に彼氏の嫉妬私のお返しを味わっているだろう。
 ここまでは想定通り。だが一番の懸念は残る一人だったりする。
 私がなのっちに構うと、下野は間違いなく嫉妬する。するのだが……それでなのっちをどうこうしようとしないのが下野なのだ。二人がまだくっついていないというのが遠因だろうが、なのっちの性格も多分に影響していると思われた。
 ならば、ここは――






 私は北条となのっちが居ないことを確認した上で、下野を呼び出した。



「鷹月先輩。何か用ですか?」
「ああ。ちょっと新作の菓子を作ってみたんだ。下野に試食してみてもらおうかと思ってな」
「どうして俺に?」
「他人様に食べ物を提供する親の子だ、舌は確かだろう。忌憚のない感想が訊きたい」
「……今食べろってことですか」
「ああ」
「相変わらず無茶振りしますね……まあいいか。頂きます」



 そして下野が菓子を口に放り込んだところで、



「あーっ!」



 廊下を揺るがす叫び声がした。



「紫センパイが……紫センパイが公衆の面前でひーくんを餌づけしてるっ!」
「なんかイロイロ失礼な発言をするなっ!」
「……で、どうだった?」
「あ、ええ美味いです。強いて言うなら、砂糖はグラニュー糖じゃなくて黒砂糖みたいなコクのあるものの方がいいかも知れませんね」
「ナニ何々!? 何ひーくん紫センパイのお手製お菓子食べた挙げ句イチャモンつけてるのっ!?」
「イチャモンって何だ失礼な!!」
「うん、わかった。やっぱり下野に食べてもらって良かったよ、じゃあな」
「ひーくんズルイ!」
「だからどうして俺が!?」



 公衆の面前で言い争いと言う名のいちゃつきを始めた二人を放置して、私は部室へと向かったのだった。



(なのっちに対しては、あまり効果的とは言えなかった気もするが……ま、いいか)






嫉妬には嫉妬を



 愛あるサプライズには、やっぱり愛あるサプライズをお返しします♪


 
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