majiで嫉妬する5秒前…上









12月になったー


12月12日は紫サンの誕生日だ
初めて紫サンの誕生日を祝えるんだ、僕の全てをかけてお祝いしたい


その誕生日を素晴らしい日にする為に僕は真っ先にしなくてはいけない事があった



僕は下野の横でスキップしている最重要危険人物を捕まえて、忠告をした



「吉野、くれぐれも12日は邪魔しないでね?」
「は?」
「だからー、12日がなんの日か知ってるよね?」
「もちろん知ってるよ!大好きな紫センパイの誕生日だもん」
「だから僕と紫センパイのラブラブデートを邪魔しないでね?」
「……」
「何?黙秘?」
「……」
「あっ、ちょっと吉野ー」



黙ったまま僕と下野の前から走ってどこかへ行ってしまった



「…何だあいつ。無言とか気持ち悪いな」
「だよね?逆に怖いよね…」
「今月は鷹月先輩の誕生日なのか?」
「うん、そう♪」
「幸せそうだな」
「下野の自分の気持ちに素直になれば、幸せになれるよ」
「余計なお世話だ」
「まっ、とにかく12日は吉野をちゃーんと捕獲しておいてよね!」
「何で俺がっ!」



吉野の様子が変なのがちょっと気になるけど、下野に任せておけば大丈夫でしょ

僕は最愛の人の元へと向かった




大海と聖の前から無言で走り去ったなのは、かんなと志乃の元へと向かっていた
ある決意を胸に秘めてー



「センパーイ、入りますね」
「なのちゃん、どうしたの?朝からメールでお昼休みに部室集合!紫センパイには絶対秘密!だなんて…」
「そうそう、どした?」
「いよいよ12月になりました!12月と言えばー?」
「師走?」
「クリスマスかしら?」
「だー!2人とも、今年最後の大イベントがあるじゃないですか!」


かんなと志乃は顔を見合わせて、「ああ、アレね♪」と呟きなのに笑顔を見せた



「私達が考えてないわけないでしょ?」
「そうよ、なのちゃん。しかと考えております」
「うわー!さすがセンパイ♪で、どんなサプライズパーティーにするんですか?あっ、その前に…コホン。宣誓〜!吉野なのは12月12日だけは紫センパイと北条くんとの仲を一切邪魔しません!ヤキモチも焼きません!以上」



なのの声が部室に響き渡った、と同時に笑い声も響いた



「なんで、かんなセンパイも志乃センパイも笑うんですかー?もー」「うふふ」
「あはは、なのちゃんごめんごめん」
「なのちゃんの気持ちは分かったわ」
「え?」
「そうそう。なのちゃんがそう決意してくれて、助かったよ」
「え?意味が分かりませんけど…」
「あのね、なのちゃん…」



あたしはかんなセンパイと志乃センパイが考えた、サプライズ作戦を聞いた



「うわぁ♪色んな意味で凄い一日になりそうですね!絶対成功させて、紫センパイに喜んでもらいましょうね」
「うん、頑張ろうね」
「頑張りましょう」



それからあたし達は12日に向けて準備を始めた


そして誕生日パーティーの前日に、あたし達は北条くんを呼び出した






「相澤センパイに佐伯センパイ…そして吉野。要件はなんですか?って、大体予想はつくんですけどね」



お昼休み。部室に入って来たなり、そう口火を切った大海に3人が、チラッと顔を見合わしたのち。かんなが にこやかに語りだした。



「北条くんの想像通りなんだけど。ちょっとだけ内容は違うと思うよ。

ねぇ?北条くん。紫ちゃんに嫉妬されたくない?」




想定外だったのだろう。大海は一瞬だけポカンと口を開いて唖然としたのち

「………凄く、されたいです。」
思わず嫉妬する紫を想像してか頬を赤く染め、それが恥ずかしかったからか 顔を隠すように俯き気味になる大海。



そんな大海の姿を愉しそうに
「なら、2人きりになりたいからって紫ちゃんを連れ出さないでね。」

身体を折り曲げ、下から覗き込み念を押す志乃。


「そうそう!私達が紫先輩を見事嫉妬させてあげますよ♪」

片手を腰に置き、誇らしげに胸を張りながら人指し指を横に振る なの。


「吉野。ウザい…。 そして君がなぜ威張る?」
「あっ、でもいいんですか?佐伯センパイ」

大海は志乃の方を遠慮がちにチロリ視線を送る。ここで彼女にきちんと了承を得ないと、こちらもこちらで後の攻撃が恐ろしい。

「うん、問題無し」

口は笑っているのに目は笑っていないのは自分の気のせいだろうか、と大海は一抹の不安は抱く。

「先生と思いっっ切りイチャイチャ!して、ね!」

志乃の抑揚はこの上無く可笑しいが志乃の肩を宥めすかすかんなの手を大海は信じることにした。





そして12月12日当日。





「……何だ、これ?」

朝、登校した紫が怪訝そうに眉をしかめ、下駄箱から取り出したのは一枚のメモ用紙。そこにはウサギのイラストに『部活時には一人で来てね♪』と一文が書いてあった。
このにょろにょろした習字癖のある字には覚えがある。

「……志乃ちゃんだ」

溜め息と共に呟いた。
字体にそぐわない内容に紫はただただ嫌な予感しかしないのであった。





キーンコーン、カーンコーン。
キーンコーン、カーンコーン。
ショートホームルーム終了の鐘が鳴る。

今日は珍しく廊下や移動教室で部員の誰一人とも擦れ違いもしなかった。
こういう時は益々紫自身の予感は的中するのだ。
絶対に皆で紫の与り知らぬ所で何かを企んでいるに違いない。そう確信した紫は志乃が書いたと思われるメモ用紙を手にすると旧校舎へ足を向けた。





ひゅっ。途中通り抜ける中庭で冷たい風が紫を捕らえる。
コートを腕に掛け、中庭から文芸部の部室を見上げるとそのままゆっくり歩を進めた。





開口一番にあのメモの真相を解き明かせよう、そう思いながら部室の扉を開いた時だった。

思いもしない光景に紫はその場で固まり、抱えていた鞄とコートが腕から床へと滑り落ちた。
ゴトッと鈍い音が辺りに響くが、目の前にいる人間たちはそれにすら気にも止めない。





……何なんだ、この状況は。





「……ヒロくん、ヒロくん」
「何ですか、トモくん?」
「……巨大ペンギンの話聴きたくない?」
「それは是非とも」

一番に紫の目に入った大海の直ぐ横には、何故か顧問でもない椎名がちゃっかり陣取っていて。更に言うなればその距離は余りにも近い。

そんな二人を気にしそうな志乃はその斜向かいでかんなと楽しそうに談笑をしている。時折二人の高い笑い声が重なる。

そして志乃とかんなの机を挟んだ向こうには生徒会長である浩輝の話に、彼に憧憬を抱く聖となのが懸命に耳を傾けていた。





……本当に何なんだ、この統一性のない空間は。





紫は部室をもう一度見渡すが、誰も紫が来たことに気付いてない様子に違和感を覚える。『部活時には一人で来てね♪』なんてメモを渡されておきながら、紫は途方にくれる。

そんな瞬間であった。





「……ヒロくん、両腕広げて?」
「こうですか?」
「……そう、丁度は昔いたペンギンの大きさはこれくらい」
「へえ、初めて知りました」
「……じゃあ丁度良いから、失礼」

椎名が次に取った行動に紫は身体を後ろへ仰け反らせた。





「……良い匂い」

両腕を広げた大海の胸の中に椎名がちゃっかり自分自身を収めたのだ。
すんすん匂いまで嗅いでリラックスモードに入る。






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