小出高校の男子高校生の日常5



 


 いつもの三人がいつものように馬鹿話に興じている。……だからどうしてそれを俺の机の傍でするんだ。
 俺は広げた教科書を目で追うことに集中した。そうやって一生懸命、奴らの話から意識を逸らした。






 ……それなのに。






「でさ、俺、昨日奮発してメイちゃんに服を買ったげたの。ピンクのフリフリですっげー可愛いヤツ」



 松嶋の得意気な声を耳が拾ってしまった。

 松嶋アイツ……彼女が出来たのか?



「ああ、確かに似合いそうだね。可愛いもんね、メイちゃん」

 頷く北条はその存在を知っているらしい。松嶋が言った衣装が彼女に似合うか否か、それが判る位。



「でも敢えてピンク行くか? そこは清楚に白とかのが似合いそうな気がするんだけど」

 そしてそれに対して異論を唱える中上も然り。
 ……知らないのは俺だけか。



「バカ言え。めっちゃ似合ってるっての。待ってろ……ほら」
「どれどれ……あ、似合う似合う」
「うわマジ可愛いなオイ!」
「だろ? だろだろ?」



 松嶋は携帯を取り出して待ち受け画面を見せる。そしてそれを覗き込んだ二人が感嘆の声を上げた。




「しっかし良く着せたね。なんか複雑そうな作りの服だけど」

 北条の問いに、松嶋はため息で応えた。

「あー……それは言うな。着せる時もものすごい苦労したんだけどさ、脱がせる時は本当にそれ以上に手こずってさ……」






 …………脱が、せる…………?



 不埒な単語を耳が拾った。顔を上げた俺には構わずに松嶋は続ける。



「思いっきり引っかかれてさ。痕になっちゃったよ」
「うわ。痛そ……」
「どうせ無理やり脱がせたからだろ?」
「だって早く脱がせたかったんだよ!」






 彼女。脱がせる。一体松嶋は、そしてコイツ等は――






「昼日中から一体何の話をしてるんだ!」






 思わず声を上げると、三人が三人、キョトンとした顔をした。……え?



 それに一番に気づいたのは北条だった。人の悪い笑みを浮かべて俺の肩を叩く。






「下野……正直に言って。今一体、何を妄想したの?」
「何をって……!」
「なーんか、やましいこと、考えてね?」
「や……っ、やましいのはお前等の頭の方だろうが!」
「やましいって何だ失礼な!」



 松嶋が、印籠を突きつけるが如く俺に携帯を突きつけた。そしてそこに表示された画像を見て、



 ……キョトンとしたのは、俺だった。






「…………犬……」
「犬って言うな! メイちゃんだ!」



 件の、ピンクのフリフリ洋服を着た、まごうことなき犬の写メ。






 ――俺は重大な勘違いをしていたことに気がついた。






小出高校の
子高校生の
日常 



(し……主語抜きで会話するな! 紛らわしい!)
(勘違いしたのは下野だろ!?)
(そうだ! 俺のメイちゃんを汚しやがって!)
(駄目だよ二人とも、赦してあげて。仕方ないよ、下野はムッツリなんだから)
((……あー……))
(そんな憐れなものを見るような眼差しで俺を見るな!)
(わー、ムッツリが怒ったー!)


 
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