学園祭、最終日 -炎色のフィナーレ- |
暗い夜を、炎の赤が焦がす。 何かが放り込まれる度に、火の粉が舞い上がり、炎と熱量が増す。 長くてあっという間だった学園祭も、これでおしまい。 今はグラウンドの真ん中で、キャンプファイヤーが行われている。学園祭で作った案内書や、ポスターや、その他不要とされたものが、どんどん炎にくべられていく。 それを糧として燃える炎は、とても幻想的で、神秘的で、綺麗で、――そしてとても物哀しく思えた。 学園祭、最終日 -炎色のフィナーレ- 周囲が賑やかしく騒ぐ中、アタシは火にくべるべく持ってきた箱を抱えたまま、じっと炎を見つめていた。 あっという間の四日間。それに至るまでの準備と費やした時間を思えば、四日なんてほんの短い時間でしかない。 だけどその中にすべてが詰まっていた。トラブルもあったけど、みんなで乗り切った。どこまでも充たされた時間だった。でも―― (……もう、終わっちゃうんだな) 箱に入っているのは、店で使ったお品書きや案内用のポスター。うちから出た不要品はあまりにも少ない。それでもこれも思い出の一部であることは確かで、そう思うと、箱を何の感慨も無く炎に放り込むのは躊躇われた。 「……燃やさないのか?」 「え?」 不意の声に振り返ると、そこには宮本先輩が立っていた。彼は箱を差して、それ、と言う。 「燃やすために持ってきたんじゃないのか?」 「えーと……はい、そうなんですけど……」 「……ほら、貸せ。俺が行く」 「え、でも……」 「結構火の粉が上がって危なかったりするからな」 「あ……ありがとうございます」 宮本先輩は私から箱を受け取ると、躊躇することなく炎の中に放り込んだ。ぼわっ、火の粉が舞う。アタシたちの思い出を糧に、炎がまた勢いを増す。 炎を見つめるアタシに、炎の元から帰ってきた宮本先輩が声をかけた。 「良い学園祭だったみたいだな」 「お陰様で。楽しくできましたよ、ただ先輩には多大なご迷惑をかけちゃいましたけどね」 「……初日のアレと、セーラー服事件か」 「はい。すみませんでした」 「佐伯に咎はないだろう?」 宮本先輩はアタシの隣で、アタシと同じように炎を見つめる。――何を思っているのか、アタシはそれが気になった。 「宮本先輩は、四日間、ずっと学祭の総責任者として忙しくしてらしたんですよね?」 「ああ。なんだかんだでトラブルは起きるからな。如何に迅速に収束させるかが求められる」 「それは、楽しいことなんですか?」 だってアタシたちみたいに、何かを作ったり催したりした訳じゃない。ずっと裏方に徹していた宮本先輩は、この四日間何で充たされていたんだろう。 「楽しいとか、そんなの考える余裕は無かったな」 先輩は噛みしめるようにそう言った。 「目先のトラブルに対処しながら、それが学園祭全体に及ぼす影響を考えて、次のトラブルが出る前に対処する。それが二重三重になると複合的になって対処が難しくなる。それでも――」 パチン。大きな音がして炎がはぜた。 それを見つめる宮本先輩の表情は、炎の揺らめきで読み辛い。 「皆が笑顔で学園祭を楽しんでいられたんなら、俺はそれで満足だ。高校生活最後の学園祭だからな、どうせなら良い思い出で締めたかった」 「それで、良い思い出で締められましたか?」 「……佐伯は『楽しくできた』と言ったな。とりあえずは、そう言うことだ」 「そうですね。宮本先輩が居なきゃ、きっとアタシたちも『楽しくできた』なんて言えなかったでしょうし」 何の気なしにそう返すと、宮本先輩が目を見張った。それから口角を吊り上げる。 「それは最高の賛辞だな」 それから暫く、アタシと宮本先輩は並んで炎を見つめていた。 揺らめくその都度、炎はその姿を変える。 目まぐるしく変わる姿に、学園祭の思い出の数々を写しながら―― |