体育祭 仁義なき戦い 二人三脚編 −中ー






「いっちに…っ…きゃあ」
「うっ…」



お昼休み、下野と渡り廊下を歩いていると中庭から二人三脚の練習をしているのであろう佐伯センパイの声が聞こえて来た

でもさっきから一向に「いっちに…」の先が全く聞こえてこないんですけど…




体育祭
仁義なき戦い 二人三脚編−中−




渡り廊下から下を覗いてみると、ちょうど吉野が佐伯センパイに駆け寄った所だった



「志乃センパーイ、大丈夫ですか?」
「うぅ…、なのちゃんどうして一歩も前に進めないのかな?」
「あー…それはきっと…」

あたしはチラリと志乃センパイの隣にいる人を見た


「分かってるよ…僕が原因なんだよね?」
「堺くんだけが悪い訳じゃないと思うの…」
「いいよ、慰めはいらないよ」
「堺センパイ、諦めないで下さい!もう一回頑張りましょう」


二人三脚に出る羽目になった佐伯センパイ
が吉野と一緒に練習をし始めたらしい



「相変わらずうるさい奴だな」
「気になる?」
「全くならん!行くぞ、北条」
「はいはい…」



ツカツカと前を歩き出した下野の足が止まった
ん?あいつは、確か…



「おーい、よっしのちゃ〜ん」

吉野のペアの羽田野がやはり渡り廊下から中庭に向かって声を掛けていた



「下野、あいつがC組の羽田野だよ」
「…知っている。軽薄そうなヤツだ」

同意
そして最も下野が嫌うタイプだな


「なーにー?羽田野くん」

呼ばれた吉野がこちらを見上げた


「俺を教室に置いて二人三脚の練習しないでよ〜。寂しいじゃん。今からそっちに行くから待っててね〜」

吉野に手を振り、羽田野は行ってしまった



「あー!ひーくんだ!キャー、ひーくーん♪」

下野に気付き、ニコニコと嬉しそうに手を振る吉野


「大声で人の事を呼ぶなっ!しかもその名前で呼ぶなっ!ったく」


口ではそんな事を言ってるけど、まんざらでもないって顔してるよ、下野


「佐伯センパ〜イ、吉野に変な事されたらすぐに言ってくださいね〜」
「うん、ありがとう。北条くん」
「なの変な事しないもん!」
「どーだかな!」
「ひーくんまで…、ヒドイ」


いつものやり取りに笑みがこぼれていると、空気を読まないアイツが現れた



「吉野ちゃんお待たせ♪さあ、練習しよっか」


馴れ馴れしく吉野の肩を組む羽田野


「あたし今、佐伯センパイ達と練習してるから嫌」
「つれないな〜、吉野ちゃんは」
「さあ、佐伯センパイ、堺センパイもう1回頑張りましょう」
「うん、そうだよね。頑張ろう、堺くん」
「うん…」



吉野が羽田野から離れ、2人を応援し始めた

すると羽田野がこちらを見上げているのに気がついた



「下野の事、睨んでるね」
「ああ。なんだアイツは」
「ライバル視してるからじゃない?」
「いい迷惑だ」
「でもさー、万が一吉野が羽田野を好きになっちゃったらどうする?」
「そもそも吉野が誰を好きになるのか俺には関係ない事だ。………………でも、いくらクルクルパーな吉野でもあんなヤツに惚れる程バカな女ではない」「聖ってば、カッコいい〜」
「茶化すな、北条」


今のセリフ吉野に聞かせたら、泣いて喜ぶだろうな
今なら素直になるかな?


「で、下野は吉野が好きで間違いないんだよね?」
「間違いだ。好きではない」
「早っ。即答じゃん」



俺達が話している間に、吉野と羽田野が二人三脚の練習を始めていた
なんか密着度が高くない?

って、下野ーーーー!!!!!



「下野っ!落ちるって、そんなに身を乗り出したら」
「ふんっ」



だから早く素直になろうよ、下野




そして体育祭当日…



「志乃センパイ!堺センパイ!あれから毎日練習したんですから、大丈夫です!なのが保証します。1年は先にスタートですから行きますね」
「うん、なのちゃんありがとう。頑張る!なのちゃんも頑張ってね」
「吉野さん、ありがとう」
「あたしはパン目がけて頑張ります!」



スタートラインに並ぶ1年達
A組から順に名前を呼ばれて行く

『A組中上くん、森下さんペア………B組…』

「森下さん、息を合わせて頑張ろう!」「うん。中上くんについて行くからね」
「/////」


『C組羽田野くん、吉野さんペア…』

「いよいよだね、吉野ちゃん」
「うん」
「俺達の愛の力を試す時が来「パン目がけて一直線ー!!」
「最後まで人の話を聞いてよ〜」


「お?なのっちが走るな」
「志乃ちゃんも控えてるわね」
「紫サンに相澤センパイ」
「隣は噂の彼か…」
「見てください、アレを」
「…仁王立ちしてるじゃないか、下野のヤツ」
「なのちゃんが心配で仕方がないって感じね」
「でも絶対認めないんですよ」
「まったく、素直になればいいものを」




程なくして、最初のスタートを知らせるピストルが鳴った
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