吉野さん家の家庭の事情2 |
昨日は学園祭にお兄ちゃん達が来て、散々な目にあった… そして今日は学園祭最終日 まさかあんな悪夢が起きようとは 吉野さん家の 家庭の事情2 朝、廊下を歩いていると後ろから声を掛けられた 「あらー♪やっぱりとっても似合ってるわ、なのちゃん。かっわいー」 ん?どこかで聞いた声 「なのちゃん、お姉ちゃんにもちゃんと見せて頂戴」 ………翠お姉ちゃん!? 「翠お姉ちゃん、何でここに?」 「だってー、可愛らしいなのちゃんをこの眼で直接見たかったからよ。それに昨日、大正浪漫ななのちゃんを自慢する長文メールが3通も来ちゃってね。翠お姉ちゃんイラッてしちゃったわー。私だけ見れないなんておかしいじゃない?」 「おかしいじゃない?ってお姉ちゃん…」 「昨日の3人の行動はちゃーんとお姉ちゃんが窘めておいたからね」 ああ…、翠お姉ちゃんの笑顔が怖い これで暫らくはお兄ちゃん達も大人しいだろうな 「ふふっ、本当に可愛らしいわ♪食べちゃいたいくらい」 「ちょっと翠お姉ちゃん、ムギュムギュしないでー」 「あーん♪可愛い、可愛い、可愛いー♪」 翠お姉ちゃんのスキンシップもお兄ちゃん達に負けず劣らず激しい 「さあ、なのちゃん。なのちゃんの文芸部に連れていって頂戴?」 「まだ準備中だし、なんでこんな朝一から来たの?」 「あっくんがこの時間しか空いてなかったのよー」 「え!?あっくんも連れて来たの?」 「あっくんもなのちゃんの可愛い姿見たいらしいから」 …絶対にそれはない 見てバカにする気だもん 「で、あっくんはどこにいるの?」 「ああ、彼には重大な任務を任せてあるの。今頃、仕事してるんじゃないかしら」 「え?」 その頃、別室にて− 「ふんっ!貴様が下野聖だな?小娘と同じで青臭い奴だ」 「朝から人の事を拉致しておいて何を言ってるんですか!貴方は一体誰なんですか?」 「俺様を知らないか?」 どこかで見た顔だけど…、思い出せない 「まあいいだろう。それよりコレに着替えろ」 その偉そうな男が着物らしき物を俺に投げつけた 「はやくそれに着替えろ。俺様は忙しいんだ」 「な、なんですか?これ…」 「小娘の文芸部では大正浪漫がテーマなんだろ?で、男子はこれを着るそうじゃないか。だから貴様もはやく着ろ」 何なんだ、この人… 超偉そうな態度のうえに俺を貴様と呼ぶとか… ん?小娘の文芸部…? 「あのー、もしかして吉野の知り合いですか?」 「はっ!認めたくはないが、小娘の義理の兄の真壁滉だ!」 義理の兄… 吉野のお姉さんの旦那さん…? 真壁…滉…? 「あっ!もしかしたら、真壁財閥の社長さんですか?」 「ああ、いかにも俺様が真壁財閥のトップだ」 「うわー!俺、憧れてるんです!」 「は?」 「この若さであの真壁財閥を取り仕切るリーダーシップと迅速な仕事ぶりそして斬新な経営理念を尊敬してます!」 「おおう?」 「まさかこんな所でお目にかかれるなんて光栄です」 なんて俺は幸せ者なんだ まさか真壁滉さんに会えるだなんて 「俺様に憧れてるのか。そうか、そうか」 「あのクルクルパーのお義兄さんだなんてあり得ません」 「クルクルパー?」 「あっ、吉野の事です」 「ぶっ。小娘は好きな奴にクルクルパーって呼ばれているのか」 「あいつには迷惑ばかりかけられてます」 「それは分かるな。俺様も……」 真壁滉さんと吉野の迷惑話で盛り上がっていると、部屋の扉が開いた 「あら、ずいぶん楽しそうね」 「あー、本当にひーくんとあっくんが一緒にいるー」 綺麗な女性の後ろから吉野が顔を出した 「で、あっくん?任務はどうしたのかしら?」 「…翠」 「なぜ彼は衣装を着てないのかしら?」 「……」 きっとこの女性は真壁滉さんの奥さんであり、吉野のお姉さんなんだろう なぜだか分からないが威圧感がハンパない 暫く重い沈黙が続いた後、吉野がとんちんかんな事を言い出した 「じゃあみんなで着ればいいじゃない?みーんなで大正ロ・マ・ン♪」 「お前!何を言っているだ、このクルクルパー!」 「いったーい!」 「当り前だ」 いつもの癖で拳骨で叩いてしまったが、身内の前ではさすがにまずかったと気付いた時には遅かった… 「ねえ、下野くん?この右手は私の可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いなのちゃんに何したのかしら?」 俺の右手を持ち、笑顔で質問してくる吉野のお姉さん 笑顔が物凄く怖い 「すみませんでした」 「私にじゃないわよね?なのちゃんに謝らないといけないわよね」 すると俺の右手を吉野の頭に乗せて、一言、言い放った 「いい子、いい子してあげなくちゃね♪」 「は?」 「翠、何言って…」 「あっくんは黙る。そして、下野くんはすぐにしなさい」 吉野のお姉さんの有無を言わせない笑顔に逆らえず、俺は吉野の頭を撫でた 「やーん♪ひーくんのナデナデ〜♪なの超幸せ〜」 「良かったわね〜、なのちゃん」 デレデレと喜ぶ吉野にもう一発お見舞いしたいのをこらえ、右手を下げた…無念… 俺の無念さを晴らすかのように、真壁滉さんが喋りだした「おい!幸せに浸ってるとこ悪いが、こやつは俺が大好きだそうだ。残念だったな、小娘」 「え?えーーー!?」 「俺の憧れの1人だ。まさか吉野のお義兄さんだとは思わなかったが」 「ほらみろ。だから小娘も俺を崇め讃えろ」 「あっくんのばーか!」 「ああん?なんだと?もう一遍言っ」 「ばーか、ばーか!」 「クルクルパーには言われたくない!」 なんだ?この低レベルなケンカは… 俺が呆然としていると 「下野くんがなのちゃんと結婚したら、憧れの滉くんはあなたのお義兄さんになるじゃない♪良かったわねー」 …なに笑顔で無茶苦茶な事を言ってるんだこの人は そして振り向けば、俺の憧れの真壁滉さんが吉野と追い駆けっこしている どうしてこうなった? 俺の憧れの気持ちがどんどん薄れて行くのを感じた fin |