smooch 〜game over〜 |
なのの頭の上から、大海が彼女が引いた紙を引き抜く。だが大海がそれを読み上げるよりも早く、彼女は自らが引いた指令の内容を高らかに叫んだ。 「やったぁ!!キス権ゲットー♪ さ、かーんなセンパーイ♪今からなのと熱ーいキスしましょうねー」 「え?あっ……」 全開の笑顔でかんなに飛びつくなの。いきなりすぎるなのの行動に、周りは誰一人ついていけない。 そんな中、ただ一人冷静に、大海が出揃った指令の内容を読み上げた。 「これで指令の内容は、『ゲームで一位になった人が』『今日誕生日の人に』『キスをプレゼント』って出揃いましたねー」 「……っさせるか!」 その言葉にいち早く反応したのは聖だった。なのの襟首を掴み自分の方へと引き寄せる。ほぼ同時に浩輝もかんなの腕を引いた。だが―― 部屋には妙な沈黙が落ちた。 誰もが、なのがかんなにキスをしたように見えたのだ。 「あっ……」 そして浩輝がかんなを引きずるようにして部室から出ていくと、室内は一転、喧騒に包まれた。 smooch 〜game over〜 かんながキスをされたのを見た瞬間、俺の中の何かがブツブツと千切れるのが分かった。 いくら同性とはいえ、俺以外の輩がかんなにキスするなんてあってはならない。 早く上書きしなくては―― 俺は考えるより早くかんなの手を引いて、部屋から抜け出した。 一刻も早くかんなと二人きりになりたかった。 そして俺は生徒会室のドアを乱暴に開けた。 かんなを中に入れて、部屋に鍵を掛けた瞬間に−― 必死でつなぎ止めていた細く脆い理性の糸の、最後の一本は呆気なく切れた。 「かんな……っ」 「こうに…ぃ……んっ……」 かんなの頭を自分に引き寄せ、そのまま抱きしめるようにキスをする。 頭の角度を変えて、何度も、何度も。 かんなが苦しさからか胸を軽く叩いて来たが、今の俺にはそれすら更に欲情させる仕草でしかない。 ――止まらない。 本能のままにかんなを求めたのは初めてだ…… 今まで何処かで自制心が働いていた。 だが今は、そんなものはいらない―― 「……か、んな……」 かんなが愛しくて愛しくて仕方がない。 「……ん…っ…ふっ……」 かんなの吐息が洩れる。 俺は少し開いた口の隙間に舌を忍ばせ、かんなの舌と絡め口内を味わう。 かんなの膝がガクッと崩れ、俺にもたれかかった所で我に返った。 力なく自分に縋るかんなを抱き上げて椅子に座る。自分の膝の上で、自分にもたれかかったまま息を整えようとする彼女が堪らなく愛しくて、そして―― 「……すまなかった。」 「その『すまない』は、何に対して?」 自らの謝罪に対して返された問いに、俺は一拍置いてから答える。 「……酸欠にさせた事だな。」 「ならいいよ。」 「え……?」 「キスした事に謝ってたら、こう兄の事許さなかったよ?」 ――かなわない。 俺は上目遣いで自分を見つめてくるかんなを抱きしめた。 「いいかかんな。お前に触れていいのは俺だけだ。俺以外が触れる事は許さない。」 「絶対に?」 「絶対に、だ。」 抱きしめている腕を緩めかんなを見つめると、何かに引かれるように顔が近づいて――そして再び唇が重なった。 今度は優しく、甘く、それは砂糖のように甘い……キス……。 「こう兄あのね……勘違いしてそうだから言っておくね?」 「なんだ?」 「なのちゃんのキスは、未遂、だよ?」 「!!」 fin? そして主賓が去った後の部室では―― 「ひーくん!何するの!?何で止めたの!」 「いくらゲームで勝ったとはいえ、本気でキスしようとする奴があるかっ!」 「いったーい!ぶつことないじゃない!なの、一番になったんだよ?」 「だから、お前は止めた俺の気持ちも少しは考えろ……って、何でもない!」 本音を少し洩らしてしまった事に居たたまれなくなった聖は、全速力で部室を出ていった。 「あっ、待ってよひーくんっ。ひーくんを好きにして良い権がまだ残ってるよ!?」 聖の後を追いかけて、部室を出て行くなの。 「やれやれ。やっと静かになったな。」 「ところで紫サン、吉野はキスできたと思いますか?」 「私の角度からはしてるように見えたが。」 「実は絶妙なタイミングでしてません。下野がギリギリ引き剥がしました。」 「よくやった、下野。」 「……紫サン。僕は褒めてくれないんですか?」 「は?」 「だから、計画は成功したんだし、僕も報酬が欲しいです。」 「何だそれは!」 「くれないんなら……貰っちゃいますよ?」 妖しく微笑んだ大海を見て、狼狽えた紫は部室から逃げ出した。逃がすまいとすぐにその後を追う大海。 「みんな居なくなってしまいましたね……」 「ねえ志乃……ヒロくんが言ってた『計画』って何?」 「あ、それはですね。今回の企画自体が、かんなちゃんに宮本先輩からのキスをプレゼントしようという目的のためのものだったんです。その計画を、北条君が立ててくれたんですよ。」 「それで、当の二人が居なくなったのに、どうして計画は成功なの?」 「それは……他の人にキスされたのを見た宮本先輩は、絶対に上書きする筈だって。」 「上書き?」 「つまり、他の人の跡を消すために自分がキスをし直すだろうって、北条君が……」 「成る程。俺も、もし志乃が誰かとキスしてたら、絶対上書きするよ。」 「……え? ちょっと先生、この手は何ですか!?」 「でも今は普通にキスしたい。」 「先生、ちょっと待って下さい! ここじゃ駄目ですからっ!」 「……じゃあどこならいいの?」 ジリジリと近づいて来る椎名から逃れるように、志乃もまた後退りしながら部室から出ていった。 彼女の逃げ先は分かっていると言わんばかりに、ゆったりとした足取りで歩き出す椎名。 そして誰も居なくなった―― 今度こそfin(笑) |