smooch 〜game1〜



 


そして11月11日──。
今日はかんなの誕生日だ。

部室内に誕生会用の飾りと、紫手製のケーキと、紫が姉に頼んで調達してくれた花々が机の上を彩る。
ティーセットは取って置きのアンティーク調のもの。繊細な罫が縁取るソーサを志乃はテーブルに配置した。

そして満面の笑みで三つのボックスを抱える大海を見上げる。

「凄く楽しそうだね、北条君。」
「それはそうでしょう。相澤センパイの願いを叶え、且つ会長センパイを煽るんですから。」

……怖いことをいとも容易く言ってのける彼が一番怖いと志乃は思う。
そんな彼の後ろから、紫が腕を組みながら顔を覗かせた。

「本当に上手く行くのか?万一なのっち以外が勝った場合はどうするんだ?」
「あ、それはですね……。」

続きを大海が紫に説明しようとした、正にその瞬間だった。






盛大に部室の扉が開かれるのと同時に大きな声が響いた。

「セーンパイ!かんなセンパイをお連れしましたーっ!」

かんなの腕にしっかり両腕を絡めて離さないなのが、誕生会会場となっている部室へやって来た。
なのに連れられたかんなは飾り付けられた部室を見回すとぱちくりと何度も瞬きをする。

「……これは?」
「かーんなセンパイ!何をビックリしてるんですか!今日はセンパイのお誕生日でしょう?だからその手作りパーティーです!」
「……凄い、部室じゃないみたいだわ。」
「じゃあ早速、なのからかんなセンパイにチューのプレゼントを……。」






ガツン!






勢いでかんなの首に腕を巻き付けたなののその頭に拳骨を落としたのは、顔を大いに歪めた下野聖であった。
その少し後ろには腕組みをした生徒会長、宮本浩輝の姿もある。

「いっったあ〜っ!」
「こんの、破廉恥女が!公衆の面前で何をしてやがる!」
「やん、ひーくん!もしかして嫉妬?ジェラシー?ねえねえ?」
「お前は欲望の前に人の話を聞け!」

ギャンギャン騒ぐ一年に対して浩輝は幾ばくか不機嫌な声でかんなに問う。

「……俺はやっぱり戻る。部内で祝って貰えば良い。」

その言葉にかんなは反射的に浩輝の腕を掴んだ。

「こう兄……。わたしの為に来てくれたんじゃないの?」
「だけど、」

少しでも罰の悪い顔を、もしかしたら態度をかんなに見せてしまうのが、浩輝自身は許せない。
幾ら同性と言えども、自分の……と思いながら、浩輝は首を横に振った。
かんなはまだ誰のものではないのだ。自分に警告をする権利などない。

「こう兄……。」

かんなの寂しそうな声が浩輝の思考を止める。しかし……。





「あ、会長サン!ちゃんと約束通りに来てくれたんですね。」

二人の空気をすっぱりと切り去ったのは抱えていたボックスを机の上に並び終えた大海だった。
そしてそのままかんなの横に浩輝を並べると、どうぞと同時に部室に歩みを踏むタイミングを渡す。
かんなと浩輝は遠慮がちに見つめ合うと同時に装飾の施された文芸部室内へと足を入れた。






smooch
〜game1〜




「わあ……紫ちゃん特製のケーキにわたしの好きなお花!」

一歩足を踏み入れれば、そこは『かんなちゃんハッピーバースデー』と描かれた垂れ幕にかんなへの特別な空間が広がっていた。

「かんなちゃん、そのケーキお気に入りだったからな。今回更にちょっとアレンジしてみた。」
「紫ちゃん、ありがとう。ねえ、こう兄、見て見て。これもわたし好みなティーカップ!」
「そうだな。お前はアンティークが大好きだもんな。」

かんなの好きなものは知らないものはないと浩輝は自負をして隣ではしゃぐかんなを見て微笑んだ。
それにかんなも飛び切りの笑顔で応える。






「……宮本会長の貴重なスマイル……。」

志乃は二人の間に漂う特別な空気に顔が紅潮するのを抑えられない。

「……良かったぜ。寸前で事件を食い止められて。」

志乃の横には浩輝を尊敬して止まない聖がなのの首根っこを掴みながら呟いた。

「そうだね、今は食い止めてくれて良かったよ下野。でも会長サンだけのためだけじゃないでしょ?」
「えーえー、それってひーくんがあたしにかんなセンパイへの愛のキスをやっぱり嫉妬したってこと?」
「ちっげーよ、破廉恥女!」
「下野〜。いつも言ってるけど、素直になりなよ〜。」

一年組が騒ぎだしたのを皮切りに紫が声を上げる。

「煩い、お前ら!これからかんなちゃんの誕生日祝いをするんだ、騒ぐ奴は出てけ。」

その一喝で一年組はささっと自分の席に着いた。ようやく落ち着いた室内のカーテンを志乃が引く。
紫が大海にライターを放り、彼がロウソクに火を点けている間に明かりを消した。幽玄な雰囲気に包まれる。



「それじゃ、始めようか」
「だね。かんなちゃん、HAPPY BIRTHDAY!!」



 

 
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