吉野さん家の家庭の事情



お客様が途絶えたほんの少しの時間、ドリンクスタンドでかんなセンパイと休憩をしていた時にそれは起きた



「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
「どうしたの?なのちゃん、いきなり奇声を出して」
「か、か、かんなセンパイ〜」
「なあに?」
「あたし今、とてつもない悪寒を感じました」
「悪寒?」
「ちょっとこの場から離れてもいいですか?」
「ダメだ」
「え?紫センパイ」


ドリンクスタンドに突然現れた紫センパイ
その後ろには笑顔の志乃センパイ

「なのっち、お客様だ」
「ご指名よ、なのちゃん」


2人の笑顔がいつもより輝いている
やっぱり嫌な予感…


「あたしトイレに行って来ますね」
「だめよ、なのちゃん。お客様だって2人が言ってるじゃない」
「かんなセンパイまで〜…」



あたしは意を決して表にでた




吉野さん家の
家庭の事情






あたしが表に出た瞬間、悲鳴が上がった
声の主はもちろん


「なのー!!!なんてきゃわいらしいんだ!」
「なの姫、超絶可愛いー♪」



蒼お兄ちゃんと奏お兄ちゃん、そしてその後ろには手で耳を塞いでいる、悠お兄ちゃん



「なんで、お兄ちゃん達来たの?」
「こんな大イベント見逃すわけがないじゃないかっ!」
「そうだよ〜、なの姫。イベントは常にお兄ちゃん達と一緒に過ごすって昔からの約束でしょ〜?」
「…そんな約束ありませんけどね」


私が盛大な溜息をついてもお構い無しに、2人はカメラやらビデオやらを回しまくっている


「俺、悶え狂いそう」
「蒼ちゃん分かる、分かるよ〜♪奏も発狂しそう」
「…本当に痛々しい兄さん達ですね」


悠お兄ちゃんの暴言も耳に届いてないみたい


「なの、大正浪漫なんだね。着物がよく似合ってるよ」
「悠お兄ちゃん、ありがとう」
「抜け駆けするな!悠!」
「本当にちゃっかりさんだよね〜、悠は」
「兄さん達には言われたくありません」
「それより、お兄ちゃん達!ここ、チケット無いとダメなんだよ?だから帰って」
「チケットならさっき、なののセンパイにちゃんと渡したぞ」
「え?なんでチケット持ってるの?」
「なの姫〜、俺を誰だと思ってるの?(探偵)奏様に手に入らない物は無い!」
「ドヤ顔は止めてください」



チケットがあるなら仕方がないけど…
お兄ちゃん達いると色々うるさいからなー…
早く帰ってくれないかな

お兄ちゃん達にやんややんや囲まれてると、扉が開きお客様がみえた



「いらっしゃいませ〜、あっ、神谷くん」


入って来たのは同じクラスの男子生徒だった


「あのー、いいかな?」
「どうぞ、どうぞー。チケットある?」
「はい、これ」



神谷くんがチケットを渡そうとしたので、受け取ろうと手を出した瞬間奏お兄ちゃんの手によって阻まれた



「君のチケットはしかと奏が受け取りました。はい、なの姫。これチケットだって〜」
「うん…」


さすが探偵なだけあって身のこなしが速い


「ドリンクサービスがあるんだけど、神谷くんは何飲む?」


あたしがメニュー表を見せようとしたら、蒼お兄ちゃんに横からぶんどられた…


「さあ、神谷くんとやらが飲みたいのはどれかな?」
「ちょっと蒼お兄ちゃん!あたしの仕事!って、いつの間にギャルソンエプロン付けてるの!?」
「カッコいいだろ?で、何を飲むのかな?君は」
「あ、その…」


蒼お兄ちゃん笑顔がいつもより怖い
絶対、あたしの邪魔する気だ


「蒼お兄ちゃん!神谷くんが困ってるじゃない!どいて」
「嫌だ!」
「は?」
「俺もイヤ〜」
「何で?」
「だって、こやつ。なのに『いらっしゃいませ〜』って言ってもらえたじゃないか!」
「そうそう!なのの可愛らしい笑顔までGetしちゃうとかさ〜、あり得ないじゃんか!」
「本当に迷惑極まりない、兄達だ…」


あたしと神谷くんの間に大の男が2人…なに、これ…



「僕は大丈夫だよ、吉野。えーと、緑茶頂こうかな。それと気になってたんだけど、その衣裳は大正時代をイメージしてるのかな?素敵だね。元気な吉野によく似合うよ」


背の高い2人の壁に負けずに向こうから爆弾落としてきた、神谷くん…
ううん、神谷くんは何も悪くない…、悪くないんだけど…
ああ…、2人から怒りのオーラが見える



「なの?この彼の緑茶作って来たら?」


いつの間にか隣にいた悠お兄ちゃんが、あたしをドリンクスタンドに促した
言い方はいつも通りだけど、気に喰わないって顔してる



「じゃあ僕はこの席に座らせてもらうね」


そんなお兄ちゃん達の空気に気づく訳もなく、神谷くんが席に移動しようとすると…


「待てーい!神谷とやらはうちのなのとはどんな関係なんだ?」
「そーそー。気安くうちのなの姫の事を誉めないでくれるかなー」
「ちょっとお兄ちゃん達やめてよ!」
「止めるんじゃないよ、なの」
「悠お兄ちゃんまで!」



笑顔が怖いお兄ちゃん達に言い寄られて、ちょっと半泣きの神谷くん
助けないと!


「いーい?お兄ちゃん達!神谷くんは本をこよなく愛す図書委員で、ただのクラスメイトなんだからねっ!変に勘違いしないでよね!」
「そうか、ただのクラスメイトか」
「そっかー、ただのクラスメイトね♪」
「なんだ、ただのクラスメイトか」
「はい、…ただのクラスメイトの神谷です。用事思い出したので帰るよ…」
「え?もう?」


あれ?神谷くんなんか傷ついた顔してるけど、気のせいだよね?
でもなんで?


「はい、神谷くんはお帰りだそうだ」
「ありがとうございまっした〜♪」
「やれやれ…」


お兄ちゃん達が神谷くんを見送ると、ドリンクスタンドから楽しそうな声が聞こえてきた
もうセンパイ達なの抜きでズルーい!!


「センパ〜イ!センパーイ?」


あたしが声を張り上げて呼んでも返事はない…
すると蒼兄ちゃんから残酷な一言が…



「あっ、センパイ達の邪魔しちゃダメだよ。さっき大量に俺の特製ケーキ差し入れとして渡しておいたから。今頃、美味しく食べてるんじゃないかな」
「はぁ!?」
「残念、なの姫〜。さっ、気を取り直してお兄ちゃん達とゆっくり過ごそう♪」



蒼お兄ちゃんと奏お兄ちゃんがあたしに抱きついてきた
そしてそれを引き剥がそうとする悠お兄ちゃんと言い争いを始めた2人

あーもう…、うるさい!

「もう、いい加減帰れーー!!!!」


あたしは腹の底から声を出して叫んだ





fin
日常 かんな 志乃 なの 紫1 
小出高校 top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -