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不機嫌絶頂の彼女の、その不機嫌の理由はわからない。今は。 でも僕にはその理由を突き詰めて、彼女の機嫌を取るという使命があるのだ。しかも十分以内に。 「紫サ〜ン、こっち向いて?」 ……返事、ナシ。 まず顔を合わせないことには、話にもならないのに。 埒があかなさそうだったので、僕は彼女の手を引いて、人気のない第二図書室に移動した。 おとなしく手を引かれていた彼女が僕の手をふりほどいたのは、図書室に入ってからだった。そのまま二歩、三歩、僕から離れて背中を向ける。 「紫サン」 やっぱり、返事ナシ。 だけどなんとなくわかった。彼女がこういう態度を取るときは、十中八九―― 僕は彼女を背中から抱きしめて、その耳元に囁いた。 「自惚れじゃなかったら、嫉妬してくれました?」 「……してない」 機嫌が悪くなったのは、僕が女の子たちに集られてからだ。 返事は否定だけど、態度は肯定してる。そんな所が、とても可愛い。 「嘘吐き」 「……嘘じゃない」 「嫉妬、しました?」 「してない!」 「本当に?」 「してないってば……っ」 僕は彼女の嘘吐きな口を優しく塞いだ。それからもう一度訊ねる。 「嫉妬、しましたよね?」 「してな……」 もう一度、キス。今度は深く。吐息が零れるまで、深く。 唇を離したときには、彼女の息は上がっていた。潤んだ瞳で睨みつけられたって、ちっとも怖くない。 僕はちらりと時計を見た。残り時間、あと四分。腕の中の彼女を、僕の方に向き直らせる。 「紫サン。何で否定するんですか? 僕、嬉しいですよ?」 「何で! 嫉妬なんかされて、嬉しくないだろう!?」 「嬉しいですよ。だって僕のこと好きだから、僕に女の子が近づくのが嫌なんでしょう?」 問いかけの形をした断定に、腕の中の彼女は目を伏せた。それから暫くして、ようやく頷いた。 「……嫌だよ」 消え入りそうな、小さな声。 僕は彼女をぎゅっと抱きしめた。 「僕には紫サンしか目に入りませんから」 「でも……だって、北条は……」 「何ですか?」 「……カッコ良い……から……」 「不安、ですか?」 コクリ。頷いた彼女の頬に唇を落とし、僕はもう一度時計を見た。――あと二分。 「じゃあ、あなたが不安を感じなくなるまで、僕の愛を教えてあげます」 僕は身じろぐ彼女の唇に、もう一度自分の唇を重ねた。愛のすべてが伝わるように、そのまま深く深く口づける。 ――残り時間、あと一分―― |