学園祭、初日 -予想外トラブル- |
「これはちょっとしたものねぇ……」 かんなの呟きは、事実だけど、それでも限りなく控えめだなあとなのは思った。 学園祭、初日 -予想外トラブル- 学園祭、初日。 『文芸部は大正コスプレ喫茶をやるらしい』と言う、あながち間違ってはいないが事実ではない情報が流れたために、『茶屋』には予想以上の人が溢れてしまった。そのため、本来の目的である『文芸部誌をはじめとする書籍の閲覧スペースの提供』は、事実上不可能な状態に陥ってしまっている。 「一旦閉めた方がいいんじゃない?」 「だとしても、ここをどう収拾つけるんだよ!?」 「やっぱりきちんと説明しなきゃ」 「聞く耳もってくれますかね?」 「いや〜! あたしのセンパイたちが汚される〜!」 的外れな叫び声を上げたなのは全員が黙殺した。 外の混乱は収拾がつくどころかだんだん酷くなっているようだ。やがて、意を決したかんなが立ち上がった。 「わたしが行ってくるわ。部長としての責もあるし」 「ちょっと待ってよアタシも行くから!」 「駄目だ! 私が行ってくるから、二人はここで待っててくれ」 即座に志乃が応じ、それを紫が拒否する。それに反応したのは大海である。 「待ってください! 紫サンも行っちゃ駄目です、危ないから!」 「じゃあ誰が行くんだよ」 「……そんなの決まってます」 言葉と同時に扉を開け放ったのはなのだ。彼女は大海の腕を引っ張ると、急のことにバランスを崩した彼を外に突き飛ばしたのである。 「北条くん、ガンバ!」 そしてそれだけ言い放ち、なのは笑顔で扉を閉めた。 結局混乱を収束させたのは生徒会――言い換えるなら宮本浩輝である。 集まった人の中に大海が放り込まれたのは、結論だけ言えば大失敗だった。普段から文芸部の黒一点であることをやっかむ男子と、それ以上に書生姿の大海に驚喜した女子により、混乱が加速してしまったのである。 「これだと運営を許可するのは難しいぞ」 「ごめんなさいこう兄……」 浩輝の言葉にうなだれるかんなと志乃、そしてなの。紫は部屋の隅で不機嫌さを隠そうともしておらず、それを大海が宥めている。 「お前たちは自分たちの影響力を考えろ。メインは読書スペースなんだし、こんなに大人数を相手する気は無かったんだろう?」 「ええ……」 「ならいっそ、チケット制にしてしまえ。一時間いくら、とかでチケットを売れば、客を捌き易くなるし、客にも空き時間を伝え易くなるだろう。午前中は準備とチケット販売に勤しめば、昼くらいには再開店出来るんじゃないか?」 「……そうね」 「昼前にまた様子を見にくる。それまでに手筈を整えておけ」 浩輝はそれだけ言って、部屋を出て行った。 「忙しいのに、迷惑かけちゃったな……」 「うん。じゃこれ以上迷惑かけないように動こうか。かんなちゃん、とりあえず『closed』の札掛けてこよ? アタシはチケット作るから、金額とか細かいことはあとで打ち合わせしよっか。……なのちゃん、手伝ってくれるかな? 北条君は……十分だけあげるから、紫ちゃんを元通りにすること!」 かんなを促して志乃は立ち上がる。やることはたくさんあって、時間はあまりない。すぐに動かなければ、次に浩輝が来るまでに間に合わないかも知れない。 「さあ、動こうか!」 かくして、文芸部模擬店『読書処・浪漫茶屋』は、半日遅れで開店した。 不機嫌な紫を宥める大海の話や、チケットを売りさばき騒動を撒き散らすなのとその後始末に奔走する聖の話は、また別の機会に。 |