お仕置きはガムシロップたっぷりで









サロンスペースから紫ちゃんが実に不機嫌な表情をしながら、ドリンクスタンドとなっている裏方に顔を出した。
綺麗な髪が肩からはらりと落ちる。
今日は矢絣柄の振り袖に葡萄茶袴、黒いブーツで大正浪漫たっぷりな装いの彼女はいつも以上に綺麗で格好いい。

そんな彼女に勿体ない表情にアタシはオーダーのあったオレンジシュースをグラスに注ぎながら問う。

「紫ちゃん、何かあった?真雪さんまだ来てないの?」

その言葉に紫ちゃんの眉間の皺が更に一本増えた。

「……まゆ姉じゃない、余計な奴が来やがった。」
「……ああ、真雪さん災難だね。」
「全くだ。」

この一言で誰か解ってしまうのが、悲しいかな、小鳥遊先生。

腕を組みながら苛々している紫ちゃんにアタシは一応小鳥遊先生のオーダーを尋ねてみる。

「因みに小鳥遊先生のドリンクは?」
「ん、ああ。珈琲だが砂糖とミルクをたっぷりでとか抜かしやがった。別料金取ってやろうか。」





クスクスとアタシは自然と笑ってしまっていた。
大切なお姉さんを守ることに懸命な紫ちゃんがとても健気で可愛く感じる。

「何、笑ってるんだ、志乃ちゃん?」
「ううん、何でもなーい。じゃあオーダー通りにたっぷりでいいんだね?」
「ああ。いっそう砂糖じゃなくてガムシロでいい。胸焼けするくらい盛ってやってくれ。」

さて匙加減をどのくらいにしよう。
考えあぐねたアタシは紫ちゃんに訊いてみた。具体例がなければ量も量れはしない。

「じゃあ、紫ちゃんと北条くんのラブラブ度合いくらいでいい?」
「……し、志乃ちゃんっ!」
「それっくらい甘くしちゃって良いんでしょう?」
「意味合いが違う!」

耳まで真っ赤になった紫ちゃんが今度は可愛らしい。カップのこの辺りまでガムシロを注いでやってくれと必死に説明をする姿がこれまた可愛さを増幅させる。

北条くんが絡むと冷静さを欠いちゃうのが紫ちゃんの可愛いとこだよね。

アタシは指示通りにガムシロップを盛った。糖度の高いガムシロップがゆらゆらとカップの表面を揺らぐ。そのカップにアタシは躊躇いもなく淹れたての珈琲を注いだ。珈琲の香ばしい香りが鼻腔を満たした。

ただこの香ばしい中に含まれる恐ろしい糖度についてはにこやかに二人して無視をする。

紫ちゃんは満足そうにトレイにカップとソーサを乗せると颯爽と裏方から去って行った。





お仕置きはガムシロップたっぷりで

(言われた通りの量に紫ちゃんと北条くんのラブラブ度合いとしてガムシロップを2つ更に加えたのは内緒の話。)
(小鳥遊先生、ごめんね♪)
日常 かんな 志乃 なの 紫1 
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