学園祭文芸部プロジェクト始動!



 


 小出高校では、少し早めの中間考査が終わると、生徒たちの間にお祭りムードが蔓延する。
 別段浮ついている訳ではない。そこからおよそひと月後に控えた学校最大のイベントに、皆の関心が移るからだ。
 学園祭……正式名称『小出高校祭』。体育祭と文化祭をひとつにした、四日間に渡る文字通り『お祭り』である。









「と言うわけで、本日のミーティングは『学園祭の出し物は何をするか?』です」

 司会進行は部長のかんなちゃん。アタシはホワイトボードにミーティングの主題を書き込んだ。
 すると即座になのちゃんが手を挙げた。

「ハイハイしつもーん!」
「なあになのちゃん?」
「コスプレはどこまでならオッケーですかっ!?」



 ……アタシはホワイトボードに『コスプレは却下』と書き加えた。



「ひどい志乃センパイ! 質問に無言で答えないで!」
「手っ取り早くて良いじゃないか。私もする気はないしな」
「紫センパイまで……つれないですぅ、なの泣いちゃう!」
「でも文芸部で出し物って……部誌を出すだけじゃないんですか?」
「鋭い質問ありがとう、北条君。……それなんだけどね」



 かんなちゃんがパチンと手を打った。途端に部屋が静かになる。それを確認した彼女はニッコリと笑った。

「今年は出した部誌を読んでもらえるスペースを提供したいなって思うの」
「だとしたら……やっぱりお茶でも出す?」
「じゃあメイドカフェ! あたしメイド服着たいです!」
「……なのっち。ホワイトボードをもう一度読んでみようか?」
「うう……『コスプレ上等!』……」



 …………アタシは『コスプレは却下!』と書いた横に、ハッキリ解るように赤い波線を引いた。



「良いんじゃないですか?」

 そこへ水を差したのは北条君だ。紫ちゃんが僅かに警戒する素振りを見せた。

「……何が良いんだ?」
「本が読めて、お茶とお茶請けが出て……つまりブックカフェですよね? それにテーマを持たせて、それに沿った格好をしたらおもしろいんじゃないかって思うんです……コスプレまで行かなくても」
「一理あるわね」

 かんなちゃんが呟いて、アタシも頷いた。
 ただのブックカフェだと面白みが足りない気がする。だからそれにテーマを持たせるのは良いかも知れない。

「じゃあさ、文芸部の部誌とそのバックナンバーだけじゃなくって、テーマに沿った関連書籍も読めるようにしたらどうかな?」
「そうねえ……今回の部誌のテーマは『歴史物』だったから……」
「大正ロマン!」
「わかった。じゃあなのっち、大正時代の有名な作家と言えば誰?」
「わかりません!」
「潔いな……仕方ない。後で北条と二人、百科事典を引いてこい」
「紫サン……どうして僕まで?」
「北条。大正時代の有名な作家と言えば?」
「……わかりません」
「そう言うことだ」

 ため息を吐いてから紫ちゃんはアタシたちに向き直った。

「テーマが大正時代ってのは取っつきやすくていいかもな。あの時代は短編の名著が多い。読みやすいように文庫本を探してくれば、手に取りやすいんじゃないかな」
「さすが紫ちゃん。オススメは?」
「鉄板だが宮沢賢治、芥川龍之介、夏目漱石あたりじゃないか? あとは『赤い鳥』関連で探してみるか」
「……紫サン。『赤い鳥』って何ですか?」
「それもついでに百科事典で引いてこい……」
「ええと、じゃあそんな感じでいきましょうか」

 かんなちゃんがまとめに入る。アタシはホワイトボードに『テーマ:大正』と書き込んだ。するとツカツカと前に出たなのちゃんが、その脇に赤字で『ロマン!』と書き加える。そして何やら更に書き加えているのを見て、紫ちゃんが眉をそびやかした。



「こら、なの! お前勝手に何を書き加……ムガッ」
「それいいね、吉野。僕賛成」

 彼女の文句を口を塞ぐことで遮って、北条君が嬉しそうな顔をした。アタシはため息を吐いて、かんなちゃんはあっさり頷いた。



「テーマは『大正ロマン』でブックカフェを開催。お茶とお茶請けを提供して、当日の衣装は矢絣の着物に女袴、編み上げブーツの女学生風で。もちろん頭にはリボンね。
と言う訳で今日の部活は、各自図書室でテーマに沿った本を見つくろうことにしましょうか。なのちゃんと北条君は、紫ちゃんの宿題をこなすこと」






-プロジェクト始動-



「あった、『赤い鳥』……赤い鳥(あかいとり)は、鈴木三重吉が創刊した童話と童謡の児童雑誌。1918年7月1日創刊、1936年8月廃刊。日本の近代児童文学・児童音楽の創世期に最も重要な影響を与えた……紫サン、これですよね?」
「ああ」
「センパイ、なんで児童雑誌なんですか?」
「基本が子ども向けだからな。短くて読みやすい話が多い。芥川龍之介の『蜘蛛の糸』は知っているな? あれも元はこの雑誌に掲載された話だ……ん? どうした二人とも。複雑な顔をして……」
「ねえ北条くん……『蜘蛛の糸』って、いつだったか国語の教科書に載ってたよね?」
「うん……昔の子どもは凄いね……あんな話を普通に嗜んでたんだね……」
「お前らなあ……」


 
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